文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

渡辺専門委員の「しあわせの歯科医療」

コラム

入れ歯はどうして合わないのか?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

入れ歯作りは、2、3回の通院では終わらない

id=20190607-027-OYTEI50003,rev=3,headline=false,link=false,float=left,lineFeed=true

 「入れ歯作りは2、3回通って終わりではないことを、患者さんに理解していただきたい」と言うのは、日本補綴歯科学会副理事長で日本歯科大教授の志賀博さん=写真=です。「口の動きを見ながら、個人トレイを作ってていねいに型を取る。それをもとに模型でかみ合わせを確かめて入れ歯を作る。それでも口に入れると当たるところが出たりするので、口の動きに合わせた調整が必要」と言います。

 そのうえで、「新しい入れ歯はどうしても違和感が出るので、なれるには2か月ぐらいかかります。当初1か月は毎週のように調整が必要で、その後も歯茎の状態は変化するので、3か月に1度ぐらいは調整のために受診していただきたい」と志賀さんは話しています。お口の掃除や歯周病の管理に定期受診は欠かせませんが、入れ歯を快適に使うにも定期受診による管理が必要ということでした。

調整の診療報酬は低く、患者は何度も通うのは面倒

 大学では入れ歯作りや管理についてこのように教育しているそうですが、多くの開業歯科医の感覚とはズレがありそうです。

 「型、かみ合わせ、調整の三つがきちんとできていないと、いい入れ歯はできません。でも、患者さんは何度も通うのを嫌がるし、調整は時間がかかる割に収入になりません。完成したら、『入れ歯はこんなもんですよ』と言って、合わせて終わり。何か不都合があれば来てもらうという感じですね」とベテラン歯科医は話していました。

 そしてこうも言います。「何度も調整をやっている先生は熱意があるんでしょうけど、保険だと入れ歯自体の報酬も高くはないし、調整は時間がかかる割に報酬が低い。自費の場合だって手間のかかる調整は手早く終わらせたいですよ」

 保険には、「新製有床義歯管理料」2100円前後(装着月1回のみ請求可、患者負担は3割)や「歯科 口腔(こうくう) リハビリテーション料」1140円前後(月1回、同)など入れ歯の調整に関連する項目があります。

 開業歯科医の本音はこうなのかもしれません。かくして、それなりに合う入れ歯ができた人はハッピーですが、今ひとつ合わない人は、諦めを感じつつ何度も作り直し、入れ歯安定剤をたっぷり使ってごまかしながら使うことになりそうです。

入れ歯の設計は、歯科技工士に丸投げ

 入れ歯作りの現場を見てみようと歯科技工所を訪れると、入れ歯の現実がもう少しよく見えてきました。入れ歯の設計図は、技工指示書という書面で歯科医が歯科技工士に示すことになっています。残っている歯の本数やかみ合わせは人それぞれなので、土台をどのような形にして、固定する金属をどこに引っ掛けるかといった判断は難しそうです。ところが、歯科医から送られてきた技工指示書の束を見せてもらうと、中には留意点が書かれたものもありますが、何も書かれていないものがほとんどなのです。

id=20190607-027-OYTEI50004,rev=2,headline=false,link=true,float=left,lineFeed=true

歯科技工士が自分で書いた設計図で作業をする

 「どういうことですか?」と歯科技工士に尋ねると、「歯科医は歯型を送ってくるだけで、入れ歯の設計は歯科技巧士に丸投げなんですよ」。

 「『印象』(歯の型のこと)を見ると、この臼歯は歯茎が下がっているから、ここに金具をかけると歯が傷んでしまうので、ほかの歯で支えるようにしなきゃ……」などと歯科技工士がデザインに知恵を絞っていました。

入れ歯には経験が問われる

 前出のベテラン歯科医は、「歯科技工士たちはよくわかっているから、歯型を見れば、どういう形がいいか考えて上手に作ってくれますよ。信頼できる技工士と付き合っていれば大丈夫」と話しています。これが入れ歯作りの実際のようです。

 それで問題はないのでしょうか。

 こんな歯科医と会いました。開業して13年の中堅の歯科医は、「今まで型を取って送るだけで、技工士さん任せでした。でも、自分で設計ができないと、技工士さんに的確な指示ができないし、なぜこういう形になっているか患者さんにも説明できませんから」と、一念発起して歯科技工士が主催する入れ歯設計の講習会に参加して勉強したそうです。

 開業歯科医のほとんどは、一般歯科として、虫歯の治療から歯周病の管理、入れ歯作りまで行っています。しかし現実には、分野によって得手、不得手があります。入れ歯は経験が問われる要素も多く、意欲や経験のある歯科医でないと、歯科技工士任せになってしまうのかもしれません。

2 / 3

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

★【完成版】しあわせの歯科医療2 300-300

渡辺勝敏(わたなべ・かつとし)
読売新聞記者(メディア局専門委員)。1985年入社。 秋田支局、金沢支局、社会部を経て97年から医療を担当。2004年に病院ごとの治療件数を一覧にした「病院の実力」、2009年に医療健康サイト「ヨミドクター」を立ち上げた。歯科については歯茎や歯根があやしくなってきた10年来、患者としても関心を持たざるを得なくなっている。立命館大学客員教授。

渡辺専門委員の「しあわせの歯科医療」の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、ヨミウリ・オンライン(YOL)、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事