山崎まゆみの「心もとろける癒やしの温泉」
医療・健康・介護のコラム
シルバー層に、ファミリー層に、みんながうれしい温泉(佐賀・嬉野温泉)
半年ほど入院していた父(79歳)に、ようやく外出許可が出ましたので、先日、父を連れて温泉に行ってきました。温泉に入った後に、「生きてて、いかったなぁ~」と繰り返す父。
温熱効果で体が温まったからか、気持ちが高揚しているからか、頬を紅潮させて、ずっとにこにこしていました。それは赤ちゃんみたいな、一点の曇りもない喜びを表す笑顔。まるで”極楽“を知ったかのような、なんともいえない表情だったのです。
この日は、「旅館に泊まるのは自信がない」というので、お昼ご飯と入浴のみを楽しみました。でも、いま父は「次は、旅館に泊まりたい」と、リハビリに力が入ります。温泉に行けたことが自信につながり、父が日常生活に戻る一歩を踏み出すきっかけとなりました。
父を見て、病気からの回復期の人に、温泉は大きな力を発揮することを改めて知りました。
そんな経験から、今回は、足腰が弱ってきたご高齢の方に優しいバリアフリー温泉をご紹介します。
バリアフリー対応の旅館が13軒も
日本全国、至る所に温泉が湧いていますが、ご高齢の方や体が不自由な方に優しい温泉地の最先端をいくのは佐賀県の嬉野温泉です。嬉野には13軒ものバリアフリー対応の旅館があります。有名温泉地でも普通、バリアフリーに対応した旅館は1軒か2軒がいいところ。嬉野は温泉地全体で取り組んでいるので、13軒という多さなのです。
私が「最先端」とご紹介する理由に、「佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター」があります。センターに連絡をすると、バリアフリー対応の旅館の詳細を把握しているスタッフが、その方にとって最も使いやすい旅館を紹介してくれます。
大前提として、体の不自由な方の誰にでも万全なバリアフリールームはありません。例えば、右半身が麻痺している方にとっては、右に手すりがあっても邪魔なだけです。ですから、その方の体の状態によって使いやすい旅館や部屋があるのです。それらをコーディネートするのがセンターの役割です。
安心して任せられる入浴介助のヘルパーさん
目玉は、入浴介助サービスが受けられることです。嬉野では、どんな体の状態の方も、有資格者のヘルパーさん2人が温泉に入れてくれます。ヘルパーさんは、センターからお客さんの体の状態を聞いて把握し、入浴介助するお風呂の下見もして、当日を迎えます。
私は、入浴介助の現場を何度も見学しましたが、ヘルパーさんは初対面のお客さんに対して、日常会話からはじまり、「嬉野温泉は、美肌の湯なんですよ~」と話をしながら、徐々に心の距離を縮めていました。ご家族も安心して親を任せているといった様子でした。
女将さんの心がこもるバリアフリールーム
バリアフリー対応の旅館を3軒ご紹介します。
嬉野の名旅館・大正屋グル―プの一つの「椎葉山荘」。温泉街から少し離れ、山峡のいで湯というロケーションに絶景の露天風呂があります。緑に囲まれた露天風呂には爽やかな風が吹き抜けます。人気の観光列車「ななつ星」に乗車すると、ここの露天風呂の入浴がコースに含まれることもあるほどです。いまの季節は、バリアフリールームから蛍を見ることもできます。
こちらも温泉街から少し離れた場所にある「千湯樓」。バリアフリールームからお茶畑が望めます。女将さんは「うちにいらしてね、『10年ぶりに温泉に入れた~』って、喜んでくださるお客さまを見ますとね、私まで涙が出てきちゃうんです」とおっしゃる優しい方です。
温泉街の真ん中にある「松園」。女将が「足腰が弱ってきた母を温泉に入れてあげたかった」という、ご自身の想いで始めたバリアフリー対応の旅館です。現在は、車いすを利用する高齢者や体の不自由な方だけでなく、ベビーカーを利用するファミリー層にも使いやすいと評判を呼び、若いママさんにも大人気。赤ちゃん連れプランも豊富にあります。
1 / 2
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。