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食べること 生きること~歯医者と地域と食支援

コラム

プリンをかんだら飲み込めない!?

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 誤嚥(ごえん) 性肺炎で入院し、2週間で退院してきた房子さん(89)は、息子の義明さん(65)と二人暮らし。義明さんは献身的な介護を続けています。退院した時、「 嚥下(えんげ) (飲み込み)障害」があると言われていたので、退院後は訪問看護師に食事へのトロミの付け方などの指導を受けてきました。

トロミをつけた食品もダメ

プリンをかんだら飲み込めない!?

 ところが、義明さんは困って看護師に訴えました。「何を食べさせていいのか分からないんですよ。トロミさえつければ全部食べられると思っていたけど、口に入れても全部こぼしちゃうし、軟らかいものでも全然飲み込めないんですよ」
 「むせたりはしないんですか?」
 「たまにあるけど、それよりも飲み込まないんだよね。ちょっとプリン食べさせてみようか」とプリンのカップの蓋を開け、「ほら」と言ってスプーンですくって房子さんの口に入れました。
 すると、モグモグ、モグモグ……。止まったかと思うと、またモグモグ。1分ほどして「ちょっと口を開けて」という義明さんの指示で房子さんがゆっくり口を開けると、口の中には唾液と一緒になった液状のプリンが残っています。
 「トロミをつけても飲み込めないんですよ」と言って房子さんの口元に小さなお皿をあて、ウェットティッシュで口の中のプリンをかき出しました。次に冷たいお茶をコップで房子さんの口に入れるとすぐにゴクッと飲み込みました。
 お茶は飲み込めるのに、液状になったプリンはどうして飲み込めないのでしょうか。そのことに触れる前に食べるという動きについて考えてみます。

モグモグで食べ物をコントロールする

 食べるという動きは、「 咀嚼(そしゃく) (かむ)」と「嚥下(飲み込む)」に分けられます。かむために必要なものは何でしょうか。一番は、「歯(または入れ歯)」ですよね。もちろん、歯はそのためにあるのですから、歯は大事です。その他にかむ力(筋力)も必要です。加齢や病気などで噛む力が低下してくると、硬いものがかめなくなるということが起こります。
 かむことのもう一つ重要な要素は、舌や頬、顎の動きです。骸骨の模型の奥歯におせんべいを置いてかませると、おせんべいが割れて内側、外側に落ちてしまいます。骨だけの骸骨はモグモグできません。モグモグという動きは、舌や頬、顎が協調し、口の中で食べ物を動かしてコントロールする行為なのです。
 誰かと食事をしている時に、相手の顎の動きを少し観察してみてください。モグモグとしながら顎が右に行ったり左に行ったりしているはずです(数ミリから1センチ単位ですが)。もし、まっすぐ上下運動している人がいたら、何かの問題があると言えます。

かむことの目的は、食べ物を飲み込めるかたまりにすること

 かむという行為は、かみ砕いて食べ物を小さくし、軟らかくするのが目的ではなく、「飲み込める形にする」のが最終目的です。小さくすることや軟らかくすることは、プロセスです。飲み込める形とは、のどを通るように軟らかいことも条件ですが、さらさらとした状態ではなく、ある程度まとまった形が必要です。細かく砕いたものを唾液の粘り気でまとめた 食塊(しょっかい) なのです。唾液は単なる水分ではなく、食物をかたまりにするために不可欠です。

固体と液体ではのどの動きが違う

 さて、房子さんはどうして、お茶なら大丈夫なのに、プリンを飲み込めなかったのでしょうか? 実は、飲み物を飲み込むのと固形物を飲み込むのは嚥下の動きが異なります。飲み物はのどまで直行し飲み込みますが、固形物は噛んでかたまりにしてからのどを通ります。健常者は、この違いを意識することはありません。しかし咀嚼障害があると、固形物は口の中でちょうどいいかたまりにならないと飲み込めないのです。
 経験から言うと、お口の認知の問題があるように思えます。口の中の物が液体なのか、固体なのか、それに反応してのどが動くのです。軟らかいプリンをモグモグと咀嚼すると、固形物と認知した反応になります。その場合、プリンをちゃんとかたまりにできないと飲み込めないのです。

ゼリーなら飲み込める

 房子さんにゼリーを食べてもらうと、今度は飲み込むことができました。ゼリーははじめから、飲み込みやすいかたまりになっているからです。咀嚼障害がある房子さんが、もしどうしてもプリンを食べたければ、はじめから流動食という液体として飲み込めば多分、大丈夫です。
 健常者が意識せずに行っている「食べる」という行為ですが、一度、咀嚼や嚥下に障害が起こると、いかに精妙で複合的な動きに支えられているかが分かります。舌の動きが悪かったり、唾液の質や量が適切でなかったりしても障害を招きます。咀嚼とは、歯と力でかむことと思われがちですが、それだけではなく、舌や顎も使って飲み込みやすいかたまりを作ることも大変に重要なのです。(五島朋幸 歯科医)

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五島朋幸(ごとう・ともゆき)
歯科医師、ふれあい歯科ごとう代表(東京都新宿区)。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。新宿食支援研究会代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」、「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」パーソナリティーを務める。 著書は、「訪問歯科ドクターごとう1 歯医者が家にやって来る!?」(大隅書店)、「口腔ケア○と×」(中央法規出版)、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」(大隅書店)など

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