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心のアンチエイジング~米寿になって思うこと

コラム

「心の老い」の特効薬とは?

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僕が関わっている集まりに日本抗加齢医学会の分科会で「見た目のアンチエイジング研究会」というのがあります。もう10年近く続けているでしょうか。アンチエイジングの目的の第1は心身の若返りにあり、同時に見た目も若くなりたいという期待もあるでしょう。ですが、医者の世界では、見た目の若さを正面から取り上げるのはどうか、という風潮もありました。そこで、「見た目」に市民権を与えようと立ち上げたのがこの研究会ですが、おかげさまで順調に発展し、最近では「見た目」に対する抵抗も少なくなった感じがします。

 2年前の研究会では、大阪大学の吉川秀樹教授に「大切なことは目に見えない」という、逆説的な立場でお話しをいただきました。ご承知ですね、この言葉は。世界的に人気のある「星の王子さま」の中で、砂漠のキツネが王子様に説く言葉です。吉川教授は整形外科がご専門ですが、この言葉を切り口に、「見た目」ならぬ「心のアンチエイジング」をテーマに講演活動を続けられておられます。

余命2、3年の小学生の明るさ

 そのきっかけは吉川教授が若い医局員の頃に受け持った一人の小学生の男の子にあったそうです。悪性腫瘍で片足を切断し、抗がん剤の副作用で頭髪は抜け、全身の転移もあって余命2、3年という患者でした。過酷な運命にもかかわらず、不思議なことに、この子は幸福感にあふれていて、そのため医療従事者がこの男の子に接すると、皆明るくなったというのです。

 吉川教授は男の子の最期を 看取(みと) りました。それから、「どうしてこの子が幸せでいられたのか?」という問いへの答えを探す心の旅路が始まったそうです。その過程で「星の王子さま」とも出会い、幸福を支える三つの要素に気づいたと言います。

どんな場合でも幸福でいる三つの秘訣

 まず、どんな場合でも、悪いことにはこだわらず、いつも良い面を見ること。心理学者がいうプラス思考ですね。つぎに、先のことをくよくよ考えないで、今を全力で生きること。3番目に、これが最も大事ですが、人を幸せにすることが自分を幸せにする。まだ小学生なのに、あの男の子は、そういう生き方をしていた、と気づいたというのです。すごいことですね。病気という試練が、子供の心を目覚めさせたのでしょうか。

 どんな状況でも、幸福でいる三つの 秘訣(ひけつ) 。それは「心のアンチエイジングの要諦」でもあると吉川教授はおっしゃいます。そして「人を幸せにする」とは何も大げさなことではなく、その人のことを思うだけでも良いと。そう言われると、僕にも思い当たることがあります。

人の幸せを思うことで自分も温かくなる

心の老いには特効薬がある 我々は駆け落ち同然にアメリカで結婚したため、貧乏所帯でそろいの食器など持ち合わせず、コーヒーカップもペアでは買えず、一つ一つがバラバラでした。僕はアメリカでも日本男児を貫いて、洗濯、料理など家事は一切しませんでした。ただ一つ僕にできる料理はトーストを焼くこととコーヒーを入れることでした。朝、フィルターに入れたコーヒーにお湯を注ぎながら、「今朝のカップはどれにしよう?」「どれなら妻が喜ぶだろう?」と考えるだけで、何かキュッと胸が熱くなった覚えがあります。人の幸せを願うことが自分を幸せにする体験といったら大げさでしょうか。

心の老化とは、心が干からびること

 ところで「心の老化」とは一体なんでしょう。加齢とともに人間のすべての器官は機能が低下します。これが老化であり、加齢が問題なのではなく、それに伴う老化が問題なのです。心臓や筋肉などの衰えはわかりやすい。だが、「心の老い」とは?

 すぐに問題にされるのは認知症です。記憶力の低下、見当識の欠如など、など。でももっと深刻なのは、感受性の低下ではないでしょうか。若い時のような感激性が乏しくなる。アンチエイジングに必要なのはワクワク感だという人もいます。一言で言えば、加齢とともに「心が干からびてしまう」ということではないでしょうか。

心の老化の特効薬は、だれかの幸せを思うこと

 その点、シクラメンはわかりやすい。ちょっと水が切れると、花も葉もぐったりしてしまう。そこへ水を注ぐと、たちまちピッと茎が立ち上がって、花が輝き始めます。人の老いて干からびた心にも水が必要です。人にとって最も効果的な水とはなんでしょうか。心安らぐバロックの音色、爽やかな草原の草花のような印象派の絵画。何にも増して他人がかけてくれる温かい一言。これによって沈んでいた心も一瞬で明るくなります。みんな水の働きをしてくれます。中でも最も効果的なのが、他人の幸せを思うことでしょう。

 その時、脳内ではドーパミンが、そしてセロトニンが、あるいはオキシトシンが放出されているのかもしれません。そんな分析は脳科学者に任せておいて、我々も吉川教授の患者の男の子のように、目の前の相手を幸せにするということで、自分の心に水やりをし、潤いを与えるということが、最も効果的な心のアンチエイジングにつながるのではないでしょうか?(塩谷信幸 アンチエイジングネットワーク理事長)

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shioya_prof

塩谷信幸(しおや・のぶゆき)

1931年生まれ。東京大学医学部卒業。56年、フルブライト留学生として渡米、オルバニー大学で外科および形成外科の専門医資格を取得。64年に帰国後、東京大学形成外科、横浜市立大学形成外科講師を経て、73年より北里大学形成外科教授。96年より同大学名誉教授。日本形成外科学会名誉会員、日本美容外科学会名誉会員。NPOアンチエイジングネットワーク理事長、日本抗加齢医学会顧問、アンチエイジング医師団代表としてアンチエイジングの啓蒙活動を行っている。

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