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大人の健康を考える「大人び」

コラム

患者力(12)妻の希望 果たせぬまま

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  このシリーズでは、元和歌山市医師会長で、田中内科医院(和歌山市)院長の田中章慈さん(71)に聞きます。(米井吾一)

患者力(12)妻の希望 果たせぬまま

 大腸がんの手術後、集中治療室(ICU)に入った妻は、もともと体調が落ちていたこともあり、あれよあれよという間に状態が悪化しました。

 末期のがんだったので手術をしないという選択肢もあったかもしれません。その方が苦しみの時間は短くて済むという考え方もあるでしょう。それでも、私自身、手術を受けることで、ほんの少しの時間でも痛みもない、安らかな時間を過ごしてほしいと思って手術に同意しました。せっかく与えられた命は、1分でも2分でも永らえてほしいし、その結果、家族とのコミュニケーションも取れるようになるとの思いがあるからです。

 しかし、手術を受けた妻は、呼吸を助けるために気管を切開し、チューブを入れていたため、十分なコミュニケーションも取れない状態でした。わずかな期間、一般病棟に戻れた際にも、私に一生懸命何かを訴えているのですが、うまく伝えることができません。一つだけ何とか分かったのは、「もう少し一緒にいてほしい」ということでした。

 でも、その病院では付き添いのためのスペースがなく、妻の希望を果たしてやることはできませんでした。手術から約1か月後、妻は旅立ちました。

 きっと自宅の自分の好きな部屋で最期の時間を過ごしたいという願いがあったでしょう。でも、そのための「患者力」を発揮する機会は、妻にはありませんでした。だからこそ、皆さんには、自分自身で治療の選択ができる時は、ベストの道を選んでほしい。そう強く思うのです。

【略歴】
田中 章慈(たなか しょうじ)
1973年、和歌山県立医科大学卒。同大学助手を経て、和歌山赤十字病院第二内科副部長。85年、田中内科医院開設。2008年から13年まで、和歌山市医師会会長を務めた。日本臨床内科医会理事。

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