文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」

コラム

意識回復は難しい患者 「いつになったら目を覚ますの?」と妻に聞かれ…看護師が直面する試練と葛藤

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

泣きだした末期がん患者に寄り添えず…

 ナラティヴライティングでとても興味深かったのは、何年も前に経験した場面について書く看護師が多く、しかも、その時の状況や自分の感情を、彼らが鮮明に覚えていたことです。思い出す場面がたくさんあり、何を書こうか迷う人もいました。

 「終末期にあるがん患者の食事介助をした後、患者が泣きだしてしまう。でも申し送りの時間やナースコールが何度も鳴り、患者と一緒にいることがどうしてもできなかった」「深夜1時にICUに新たな患者の受け入れがあり、今、ICUのベッドで寝ている患者を起こし、他の病室に移動してもらうための説明をしなければならなかった」――これはごく一部ですが、「患者と誠実にかかわりたい、でも、そうできなかった」と、苦悩する姿がよく描かれていました。自分を主語にして書いてみると、自分の潜在意識や思考パターンも浮き彫りになってきます。そのため、「自分が未熟だから、また対応できなかった」とか、「いつも言葉をのみ込んでしまう」などと自己分析する言葉が出てきます。

看護師が「何を大切にしているか」

 どのような対応が患者にとってよりよいかを客観的に考えることが大切なのは、言うまでもありません。しかし、そのような「問題解決思考」では見えてこないものもあります。自分の感情をあえて表現し、互いに話をしてみることで、自分が看護師として「何を大切にしているか」も分かってきます。それは「誠実さ」であったり、「患者に関心を寄せつづけること」であったりします。

 私は生命倫理という分野から、看護学教育に携わっています。今までに出会った看護職のみなさんとのかかわりや語らいから、彼らが日々の看護実践でどのような葛藤を抱え、患者と家族をケアしているのか、この連載でお伝えしていきたいと思います。(鶴若麻理 聖路加国際大准教授)

2 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

tsuruwaka-mari

鶴若麻理(つるわか・まり)

 聖路加国際大准教授(生命倫理分野)、同大公衆衛生大学院兼任准教授。
 早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講予定(認可申請中)。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)がある。

鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」の一覧を見る

1件 のコメント

コメントを書く

複数の価値観と正義の中で割れる心

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

「いつになったら目を覚ますの?」 この言葉から、複数の意味や感情を解釈することができます。 やり場のない怒りを伴った、不安と混乱。 身体は一つ、...

「いつになったら目を覚ますの?」
この言葉から、複数の意味や感情を解釈することができます。
やり場のない怒りを伴った、不安と混乱。

身体は一つ、脳も一つですが、その時に発言者も、医療者側も入り乱れる複数の感情や思考を整理することは難しいです。(慣れてくることは、非人間的です。)

饒舌な説明を求められることもあれば、沈黙や受動的対応が求められることもあるでしょう。
患者と医療者および医療チームの相性もあり、難しいです。
なぜなら、必ずしも、良い結果が出ない中で、落としどころを探る作業でもあるからです。

そして、ベストを尽くすという言葉も難しいことがあって、人間は仕事量も成長量も限界があります。
勤務シフトを守らずに無理を続ければ簡単に燃え尽きてしまうでしょう。
(あるいは、過剰適応して人格が壊れるという亜型もあります。)

当り前ですが、人間が、人間であることを半分辞めて、医療人を演じていることに確信犯であるべきだと思います。
そして、業務として患者や家族に接する一方で、私人としての人格も無視できない部分があります。
そういうダブルスタンダード、トリプルスタンダードな感覚には慣れも適性も必要です。
今後、そういう部分も見据えたキャリアパスも大事だと思います。

人格や関係性の切り分けは難しいですが、「それでも医者か?」「それでも看護師か?」とかよくある暴言に対しても、最終的には医療人は神ではなく人間であると言うことを沈黙も含めて、どういう風に伝えるかが大事になると思います。
特に、同じ人の口から乖離した意見を聞くと混乱される方もいますので、そういう役割分担も大事です。

宿題と一緒で、溜めると混乱しっぱなしですし、ドライに割り切れる人ばかりでもないし、仕事場の中にもトラブルシューティングのシステムができるといいですね。
優秀でも、心の脆い人も沢山います。
逆に言えば、よく見えてしまうだけに、傷つきやすいのかもしれませんけどね。

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、ヨミウリ・オンライン(YOL)、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事