本田秀夫「子どものココロ」
医療・健康・介護のコラム
「家ではしゃべるのに、園や学校では黙ってしまう」は選択性緘黙の可能性も…発言の無理強いは逆効果
Jさんは、言葉の遅れもなく、家では家族と活発に話します。3歳で入園した幼稚園にも、特に嫌がらずに通っていました。ところが、入園してしばらくした頃、園の先生から親に連絡がありました。園の活動には楽しそうに参加するのですが、よく見ると、「誰とも話していない」というのです。先生や友だちが話しかけると、困った表情になり、動きが止まってしまいます。家ではとても快活に話すし、友だちが家に来た時もしゃべっていたので、親はすぐには信じられませんでした。でも、家族で外出した際、偶然、友だちのお母さんと道で会って話しかけられたときに、表情が硬くなって、一切しゃべらなくなったのを目の当たりにし、親も「何か変だ」と感じるようになりました。

イラスト:高橋まや
特定の「場面」になると話さなくなる
言葉を話す能力には、おおむね問題がないにもかかわらず、特定の「場面」になると一貫して話さなくなる状態を「選択性 緘黙 」と言います。家庭内や、家族だけと一緒にいる場面のように、本人が安心できる状況では話すのですが、幼稚園、保育園、学校などの社会的場面になると、話さなくなるのが一般的です。「嫌いな人だから、わざと話さない」「あいさつなどを親からしつけられていない」などといったケースはほとんどなく、虐待などの不適切な養育が原因であることも、まれだと考えられています。
慣れていない人や場面に対する強い不安や緊張が背景にあることが多く、生まれつき不安を抱きやすい性質をもっている子どもの一部が、選択性緘黙になるのではないかと考えられています。「選択性」と言うと、「わざと」というニュアンスでとらえられる可能性があるため、代わりに「場面緘黙」という用語で表すこともあります。
「そのうち話す」と楽観できないことも
同じ友だちを相手に「学校では話さないけれども、家で一緒に遊ぶときには話す」という場合や、学校にいても「一切しゃべらないのではなく、小声で一言、二言ぐらいは話す」という場合もあります。その一方、「家族以外の人に対しては一切口を開かず、うなずくなどの身ぶりすらしない」という子どももいます。
「人見知りが強く、恥ずかしがり屋なだけだから、そのうち話すようになるだろう」と楽観視できないこともしばしばあります。家ではごく自然に振る舞えるのに、外出して人から話しかけられたとたんに表情が硬くなり、身動きがとれなくなるほど緊張してしまう子どもの場合、人に見られるだけで強いストレスとなっている可能性があります。
近年、選択性緘黙の子どもたちの一部に、軽度の知的能力障害や自閉スペクトラム症などの神経発達症を伴っているケースがあると指摘されるようになりました。わが国では、医療機関を受診して選択性緘黙と診断された子どもの3~4割が、自閉スペクトラム症を伴っていたという報告もあります。
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