産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
「なぜ上司と次々うまくいかないのか」、カウンセリングでみえた「置き換え」という理由
「置き換え」が起こりやすいタイプ
いろんなケースがありますが、上司とうまくいかず、父親ともうまくいっていないという従業員との相談では、「置き換え」をまず疑います。春樹さんの場合、相談中に自らが「置き換え」に気づきました。4割くらいは該当しませんが、対人関係を理解する上で「置き換え」はヒントになります。
父親や母親とうまくいっていない、あるいは大嫌いだという人は一定数いると思いますが、ほとんどの人は上司と父親や母親を混同するほどではないと思います。「置き換え」が生じやすいタイプの人は、乳児期に何らかの理由で母親と基本的な信頼感をつくれなかった人が多いと感じます。人は最初の人間関係を母親と、次いで父親とはぐくみますが、最初の対人関係がその後の人生にも大きな影響を及ぼします。
仕事を続けながら上司への見方を変える、「我慢というあきらめ」も必要
3か月後、春樹さんは電話で「先生の言うとおり、意識的に『置き換え』ないようにしたら、それなりに仕事ができるようになりました。ぼちぼちですが……」と話しました。
春樹さんは上司とうまくいかない原因に気づき、上司に対する見方を変えようと努力しています。これはうまくいったケースですが、なかなか効果が出ない場合もあります。頭で理解してから、感情や気分が納得するまでには、時間もかかるからです。
「上司を父に置き換えず、日々の仕事を淡々と実践していってください。仕事を通じ上司との触れ合いも増え、慣れも生じます。少しずつ感情が受け入れられるようになっていくでしょう。時間をかけてね」。継続的なカウンセリングで、そうアドバイスすると、多くは少しずつ適応していきます。ある人は「あきらめ半分・悟り半分の境地」と表現していました。
春樹さんも、「対人ストレスで悩む人は多いですし、今の会社で働くメリットが大きいから、『我慢というあきらめ』も必要とわかります。原因がわかったのだから、それでよしとしないといけませんね」と話しています。ある程度は割り切らないと永遠に解決しないでしょう。
人間関係がうまくいかない原因が、無意識の中に隠れている場合は精神分析の考えを使うことが効果的です。今回で言えば、「置き換え」です。図に書きながら説明すると、来談者もわかってくれます。私は、このような使い方を「精神分析の補助線活用」と言います。精神分析は治療法というよりも、なぜそうなったかを解明するのに役立ちます。
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