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「教えて!ドクター」の健康子育て塾

医療・健康・介護のコラム

「赤ちゃんが泣き止まない」 どうすればいい?…夜泣きへの対処法

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イライラしたらバギーで外出

 夜泣きそのものは、赤ちゃんには無害です。しかし、夜泣きがもたらす影響としては、 「泣き止ませようと子どもを傷つけてしまうリスクが増えること」 や、 「産後うつのリスクが上がること」 が報告されています。

 そこで、途方に暮れたときの対処法をお話しします。すなわち、親自身のフラストレーションのケアについてです。

 まずは、あらかじめ夫婦で「夜泣き」という課題を共有し、夜の役割分担をあらかじめ決めておくことをお勧めします。例えば、夜のおむつ替えはお父さん、授乳はお母さん。夜泣きには、曜日ごとに、お父さんとお母さんのどちらが対応するかを、あらかじめ決めておく(そして当番ではない方は、その間に休む)。お母さん一人で乗り越えるのは、 (つら) いものです。繰り返しになりますが、「ママだから泣き止ませられる」わけではないのですから。お父さんと一緒に、夫婦で乗り越えることで、精神的な負担は軽くなります。

 次に、赤ちゃんが泣き止まず、親のイライラが募ったときは、抱っこひもやバギーを使って「外に出てみる」ことも、選択肢の一つに入れてみてください。部屋の中にいるときと比べ、意外なほど、泣き声を大きく感じず、気にならないものです。閉塞感からも解放されます。外気に触れると、赤ちゃんが泣き止むこともあります。

 「イライラしたら、ちょっと赤ちゃんから離れる」こともお勧めです。どんなことがあっても、泣き止むまで赤ちゃんから離れてはいけないわけではありません。安全なところに 仰向(あおむ) けに寝かせ、目の届く範囲で離れて、お茶を飲んだり、電話で話したり。10分くらいは、一休みしていいと思います。リフレッシュできれば、また赤ちゃんと向き合おうという気力も出てきます。

決して揺さぶらないで

 イライラが募ると、発作的に揺さぶってしまいそうになるかもしれません。しかし、揺さぶって泣き止むことはありませんし、むしろ乳幼児揺さぶられ症候群(最近は、虐待による乳幼児頭部外傷(AHT:Abusive Head Trauma)という名称が推奨されています)という、非常に重い障害をもたらします。暴力的に胸を揺さぶることで頭がグラグラする「むち打ち効果」で、脳や眼底に出血を起こし、場合によっては死に至ります。決してやってはいけません。なお、こうした障害は、「高い高い」など通常のあやし方では起こりません。

 ただ、私は、AHTの予防は「揺さぶらないように」と強調するだけでは不十分だと考えています。先ほど紹介した「泣き止ませようと子どもを傷つけてしまうリスクが増えること」を示した 2004年の論文 は、「親が夜泣きを『泣きすぎだ』と感じた場合に、暴力を振るうリスクが2.6倍に上がること」を報告すると同時に、「夜泣きに対処する保護者へのサポートが大切だ」と述べています。揺さぶるのは発作的な行動です。揺さぶろうと思って計画的に揺さぶっている訳ではないのです。
 だから「揺さぶってはダメ」と言うだけでは不十分なのです。前述したような、イライラを子どもに向けずにすむ方法、冷静になる方法を伝えることが大切です。

小児科医も夜泣きに悩む

 私自身、子どもの夜泣きに悩んだ経験があります。何をしても泣き止まず、睡眠不足でイライラする日々が続きました。どうすればいいのか、途方に暮れました。私がそれまで積んできた小児科の経験は、夜泣きの原因を探り、泣き止ませることに無力でした。

 そんなとき、ふと「やることをやっても泣き止まないことはある」と知ったことがきっかけで、「泣き止ませなくては!」と思い詰めていた気持ちを切り替えることができました。ふっと心が軽くなりました。このコラムが、少しでも「夜泣き」に向き合う保護者の皆さんのお役に立つことができれば幸いです。

 なお、これらの内容をまとめた フライヤー を作成していますので、こちらも併せてご利用ください。(坂本昌彦 小児科医)

その他の参考文献:
  1. CDC. A Journalist’s Guide to Shaken Baby Syndrome
  2. 「ママドクターからの幸せカルテ」ウェンディ・スー・スワンソン著、五十嵐隆総監訳、吉田穂波監訳(西村書店・2017年)

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坂本昌彦(さかもと・まさひこ)

 佐久総合病院佐久医療センター・小児科医長
 2004年名古屋大学医学部卒。愛知県や福島県で勤務した後、12年、タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修。13年、ネパールの病院で小児科医として勤務。14年より現職。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本国際保健医療学会、日本国際小児保健学会に所属。日本小児科学会では小児救急委員、健やか親子21委員。小児科学会専門医、熱帯医学ディプロマ。現在は、保護者の啓発と救急外来の負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクトの責任者を務めている(同プロジェクトは18年度、キッズデザイン協議会会長賞、グッドデザイン賞を受賞)。

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