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膵臓がん治療に新手法…手術前の抗がん剤に効果

治りにくいがんの一つとされる 膵臓 がん。手術でがんを切除できる場合、抗がん剤を手術後だけでなく手術前にも使った方が、生存期間が長くなるとする研究結果が1月に示された。新たな可能性を開く治療法として注目されている。(西原和紀)
難しい早期発見
膵臓がんは国内で年間約4万人が発症する。部位別の死亡数では、肺、大腸、胃に次いで4番目に多い。家族に膵臓がんの人がいることや糖尿病、慢性膵炎、肥満、喫煙などが発症を高める要因とされる。
膵臓は体の奥にあり、がんの初期には症状が出にくく、早期発見が難しい。病期(ステージ)は、がんの大きさや広がり、転移があるかどうかなどで決まる。
手術で切除できる「切除可能」は、がんが小さく、膵臓内にとどまる0、1期が中心。2期の一部も含め、全体の2割程度だ。2、3期の一部が当てはまる「切除可能境界(ボーダーライン)」は、目で見える範囲のがんは切除できても、取り残す可能性がある。一方、離れた臓器にがんが転移する4期などは、手術できない「切除不能」となる。
膵臓がんの5年生存率は手術可能な1期だと43・2%。ただ、手術後に転移・再発するケースも多く、全体だと10・0%になる。
宮城県気仙沼市の介護福祉士、千葉千恵子さん(54)は2014年、みぞおちや背中に痛みを感じた。東北大病院(仙台市)で検査を受け、膵臓がんが見つかった。医師の勧めで臨床試験に参加し、切除手術を行う前に、抗がん剤の塩酸ゲムシタビンと S―1 を使った治療(術前化学療法)を受けることにした。
千葉さんは6週間に及ぶ抗がん剤治療の後、膵臓の右半分を手術で切除。その後の半年間、S―1を使った治療を受けた。これまで再発はなく、勤務先の老人ホームでは夕方から翌朝までの夜勤もこなす。
しかし、術前化学療法は専門学会が推奨する標準治療になっていない。同病院などの研究グループは13年から、有効性を確認する臨床試験を行っていた。
転移や再発減少
試験には全国57医療機関の患者364人が参加。手術後にS―1を投与する標準治療のグループと、千葉さんのように術前化学療法を加えたグループに分け、治療成績を比べた。
その結果、患者の生存期間(中央値)は、術前化学療法グループの36・72か月に対し、標準治療グループは26・65か月。2年生存率も前者が63・7%、後者は52・5%と差がついた。
結果をとりまとめた東北大病院総合外科長の 海野倫明 さんによると、手術前は後に比べ、患者の体力があるため、十分な量の抗がん剤を投与できる。周囲のリンパ節への転移や肝臓への再発が減るほか、がんが小さくなって手術がしやすくなる効果もあるという。
一方、すぐに手術しないことでがんが進行し、切除できなくなるとの懸念もあったが、今回の試験では、標準治療のグループとの違いはなかった。関連学会でも標準治療に位置付けるための議論が始まっている。
海野さんは「術前化学療法で使う抗がん剤の種類や投与期間、放射線治療との組み合わせなど、さらに効果的な方法を研究していきたい」と話している。
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