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在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

コラム

「卒業できるデイサービス」ってどんなところ?

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「患者さんがよくなるデイサービス」を運営する橋本大吾さんと

 10年ほど前のことです。私は訪問看護ステーションに併設された居宅介護支援事業所でケアマネジャーとして仕事をしていました。担当する利用者のケアプランを作成するのが私の仕事でしたが、その時に疑問を感じたことがあります。

 デイサービスでは、要介護度が重くなるほど利用料が高くなります。要介護度が高い利用者ほどスタッフのサポートがより多く必要になりますから、利用料が高くなるのは当然ですが、事業所にとってみれば「要介護2」の高齢者が、「要介護4」になった方が、事業所の収入は増えるわけです。

 逆に、「要介護2」の方が、デイサービスで機能訓練などを実施して要介護度が改善し、デイサービスを卒業することになったら、事業所の収入は減少することになります。

 それならば、普段はつえをついて歩いている人でも、デイサービスでは車いすを使ってもらい、なるべく「卒業」しないでずっとデイサービスに通ってもらった方が、事業所は安定した収入を得られるのではないか?と疑問に思ったのです。

 介護保険の理念には、単に「できないことを手伝う」のではなく、介護が必要になっても、なるべく自立して生活できるよう支援することがうたわれています。しかし、一度デイサービスに通い始めると、ただ「食事をして、お風呂に入って家に帰るだけ」というケースが目につきます。

「よくなるデイサービス」の秘けつは運動機能の「見える化」

 医療や介護の多職種が集まる会で、理学療法士の橋本大吾さん(一般社団法人りぷらす代表理事)に初めて出会ったのは、2年前のことです。橋本さんは「僕たちのデイサービスを卒業した利用者さんと、街でばったり会えるのがうれしい」と語っていたのです。

 「デイサービスを卒業できるなんて、どんな激しい訓練をしているのだろう」と驚きましたが、宮城県石巻市にあるデイサービスを見学して、それは間違った先入観であったことがわかりました。

 「りぷらす」のデイサービスでは、一日を通して20人ほどの利用者がそれぞれ機能訓練を行っています。よく見ると、利用者はハガキ大の紙に、自分の体重や握力、歩行速度など「体力測定の結果」を書き込んでいました。自分の運動能力が改善しているのかどうか確認していたのです。

 橋本さんが運営するデイサービスでは、食事や入浴を提供していません。ここは、「ただ通うこと」が目的ではなく、利用者が自身のからだや目標と向き合い、機能訓練を通して生活能力を高めるための場所なのです。

家の中を這っていた高齢の女性が、つえなしで歩けるように

 利用者の一人、今年90歳になるという女性のAさんにお話を伺いました。Aさんは2年前の春、家の中をはって移動しなければならないほど運動機能が低下していました。Aさんは、その状態になる直前に夫を自宅で看取みとったばかりでした。5か月にわたる在宅介護は大変でしたが、往診の医師や訪問看護師、訪問介護士の力を借りて、なんとか介護を続けることができました。しかし、その時にAさんの体力はすでに限界を超えていたのです。夫を看取ったあとに体調を崩して寝込み、歩けなくなってしまったのです。

 Aさんは、りぷらすのデイサービスで少しずつ運動メニューを増やしていきました。痩せて43キロだった体重は、今では47キロに増え、標準体重に戻りました。つえがなくても、屋内であればスムーズに歩けるまでに回復。「私も、まだ頑張れるんだね。これからも、なるべく自分のことは自分でしていきたい」と笑います。90歳の女性が、「年だから」とあきらめるのではなく、前向きに暮らしている姿を見て、私は胸が熱くなりました。

新設された「栄養スクリーニング加算」

 さて、橋本さんが運営する「りぷらす」のデイサービスでは、生活状態が改善してデイサービスを卒業された方がこれまでに21人いらっしゃいます。(2013年5月~2018年9月末時点 ※1)

 利用者の「体重の変動」を定期的に確認していることも、「よくなるデイサービス」の重要なポイントだと私は思いました。

 昨年、デイサービスやグループホームなどの施設において、定期的に「利用者の栄養状態のチェック」を実施した場合、介護報酬が新設されました。健康な人も含む集団の中から、データをもとに栄養状態に課題のある人を見つけることを「栄養スクリーニング」といいます。近年、約8割の特別養護老人ホームなどの介護保険施設で、管理栄養士による栄養スクリーニングが行われています。その一方で、通所施設に通う利用者の3~4割に低栄養またはそのリスクがあるにもかかわらず、管理栄養士による栄養改善の取り組みを実施している施設はほとんどありません。多くの通所施設で、利用者の栄養状態が適切に把握できていないことが明らかになりました。(※2)

 利用者の栄養状態を「見える化」することで、多職種で栄養の課題を共有し、早めの栄養改善につなげることが栄養スクリーニングの狙いです。Aさんの「なるべく自分のことは自分でしたい」という気持ちは、多くの高齢者が願っていることだと思います。「良好な栄養状態」はそのための身体機能の土台となるものです。この制度はまだ始まったばかりですが、今後さらに広がっていくことを願っています。(在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子)

参考文献
※1 一般社団法人りぷらす 第6期事業報告書(2017年10月~2018年9月)
※2 日本栄養士会雑誌 2018年6月号 Vol.61 特集「平成30年度診療報酬・介護報酬同時改定のポイント」

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塩野崎顔2_100

塩野崎淳子(しおのざき・じゅんこ)

 「訪問栄養サポートセンター仙台(むらた日帰り外科手術WOCクリニック内)」在宅訪問管理栄養士

 1978年、大阪府生まれ。2001年、女子栄養大学栄養学部卒。栄養士・管理栄養士・介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションの介護支援専門員(ケアマネジャー)として在宅療養者の支援を行う。現在は在宅訪問管理栄養士として活動。

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