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[性同一性障害から性別不合へ](下)私は男でも女でもなかった…50代母が探し当てた「本当の自分」

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 戸籍上の性と自分が意識する性との不一致に悩む人たちの診療を行う「ちあきクリニック」(東京都目黒区・松永千秋院長)。ここを訪れる患者のなかには、男であることにも女であることにも違和感がある「non-binary(ノンバイナリー)」の人もいる。こうした性のあり方をする当事者は、どんな生きづらさを感じているのか。患者の一人である50代の主婦、井田類さん(仮名)に話を聞いた。(聞き手・梅崎正直)

結婚、出産、子育て…今、人生の忘れ物に気づく

――主婦とジェンダークリニック。「意外」と言っていいでしょうか。

 そうですよね。私自身、まさか自分がジェンダークリニックに行くとは思ってもみませんでした。

――では、なぜ?

 きっかけは定期健診です。診察結果を渡され、医師から「この数値だと更年期障害の症状が出る人もいます。体調など大丈夫ですか?」と、言われたんです。自分が更年期障害の出る年齢にさしかかったと思ったら、まるで人生で大きな忘れ物をしているような気持ちになったんです。私の人生、これで良かったのかな?と。

――大きな忘れ物ですか。

 私は、恋愛をしたことがないんです。結婚前、男性に恋愛感情を持ったことはあるのですが、男性に触れたいとは全く思えなかった。普通、恋愛感情があれば相手に触れたいと思うものでしょう? 私は、そこが抜け落ちてしまっています。恋愛感情はあっても、性欲に裏打ちされないので、恋愛関係にまで発展しなかったんです。

女性ではないけれど、男性になりたいわけでもない

――では、結婚はお見合い?

 そうです。まだ、「結婚をしない」という選択は難しい時代でした。夫のことは良い人だと思いましたが、「恋愛感情は持てない」と伝えました。「それでもいい。大丈夫」と言ってくれたので、交際をスタート。すんなり結婚することになりました。夫のことは今でも尊敬していますし、子どもを授かったことには感謝しかありません。

――それなのに、忘れ物があるのですね。

 幼い頃から、自分のことを「私は、女性ではない」と感じていました。性同一性障害という言葉が出てきた時に、「私は軽めの性同一性障害なのかな?」とも思いました。でも、「男性になりたい」と思ったことも、全くないんです。

 家事も好きだし、子育ても楽しかった。家庭の主導権は夫にありますが、私にとっては自然です。主婦であり母である自分に満足しているのに、なぜ、「私は、女性ではない」と思うのだろう? そんなふうに感じ、ネットで調べたり、本を読んだり、さんざんしました。ずっと、「自分は、何者なのだろう?」ということをひとりで考え続けて、もうほとほと疲れてしまったんです。

――受診を決意したきっかけは?

 「Xジェンダー(ノンバイナリーの日本での通称)」に関する本を読んだのです。その中に、当事者のインタビューがあって、「私みたいな人が、他にもいるんだ!」と、とても感激しました。それで思い切って受診をすることにしたんです。

「私だけじゃないんだ」と安堵

――受診をされて、いかがでしたか?

 初診時、先生から「あなた自身の性のあり方は、あなた自身で決めればいいのですよ。一緒に考えていきましょう」と言われ、心からホッとしました。「女性にならなくてもいいし、男性と恋愛ができないからといって、女性を愛さなくてもいいんだ」と思ったら、 安堵(あんど) のために涙が出てきました。

――ずいぶんと、つらかったのですね。

 自分で、自分を認められない。心の中に、何かしらの「トゲ」があるのは、わかるんです。けれども、そのトゲに触れることができない。触れ方がわからなかったし、触れたら最後、自分がどうなってしまうのかと思うと、怖くもありました。

 診察の過程には、染色体を調べるための血液検査があります。採血を担当してくれた看護師さんが同年代だったこともあり、何だか気恥ずかしくなって、自嘲じちょう気味に「私、いい年をして何をやっているんでしょうね? 今さら面倒なことをほじくり出さなくてもいいと自分でもわかっているんです」と、言ったんです。そうしたら、看護師さんが、「中高年の方、たくさん受診されていますよ」と言われて、「私だけじゃないんだ」と、また安堵しました。

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