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明るい性の診療室

医療・健康・介護のコラム

異性の前のあなたは虎、狼?それとも羊?

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今井伸(泌尿器科医)

 「世間の人は性欲の虎を放し飼にして、どうかすると、その背にって、滅亡の谷にちる。自分は性欲の虎をらして抑えている。(中略)ただ馴らしてあるだけで、虎のおそるべき威は衰えてはいないのである。」(森鷗外「ヰタ・セクスアリス」より)

 僕は思春期の頃、男の子は誰もが強い性欲を抱え、そのやり場のなさに苦慮しているものだと思っていました。「男は性欲が強い生き物」とみなす女の子の冷ややかな視線もしばしば感じていました。そんな中、森鷗外の小説を読み、「あの鷗外も有り余る性欲に困っていたのか」と安心した覚えがあります。

 昭和が終わりに近づき、国民的なスターだったピンク・レディーがヒット曲「S・O・S」で女性を狙う「おおかみ」と男を表現し、恋する男性を狼と歌ったアイドル石野真子の「狼なんか怖くない」も流行しました。大人も子供も「男は肉食系」というイメージを共有していたように思います。

 しかし平成の時代になり、異性を前にしても羊のようにおとなしいままの「草食系男子」が増えた、と話題になりました。異性にガツガツしていない人が増えた形です。令和を迎えた現代社会で「男は肉食系であるもの」という考え方もかなり薄れた気がします。

目立つ意欲低下

 不妊治療の現場にいても、性的な意欲の低さを実感します。外来に来た男性に射精の頻度を質問していますが、性行為(セックス)とマスターベーションを合わせても驚くほど少ないのです。精巣で毎日作られており、精液中の元気な精子を増やすためには、男性は積極的に射精をする必要があります。そのため、子どもを望んでいる男性には、週4回以上射精するよう助言しています。ですが、初診時点で多くの男性は週1~2回にとどまっています。

 性行為の頻度はより少なく、週1回以下が大半です。日本人は欧米人の半分以下で圧倒的に少ない、という民間企業の調査結果もあります。

スマホ疲れが影響か

 男性が異性にガツガツしない理由について、「物があふれる社会になり、何かを手に入れようとする意欲が下がった」「仕事が忙しく疲れている」など様々な理由を専門家が挙げています。科学的根拠はありませんが、スマートフォン(スマホ)やパソコンの普及が一因となっている、と僕は考えています。

 スマホの登場で人々の生活は激変しました。小さい画面から大量の情報を受けて、目も脳も働き通しです。目の疲労や睡眠不足の発生が問題視されていますが、こうした疲れの蓄積が性欲の低下にも結びついているのではないでしょうか。

強すぎる刺激は危険

 スマホで簡単に、性的な動画が流れるサイトを見られてしまうことも原因の一つかもしれません。動画の内容は得てして刺激が強く、弱い刺激では性的に興奮しなくなっていく恐れがあります。通常の性行為を物足りなく感じ、機会そのものも減りがちになるのです。

 性的な動画に触れること自体を否定するわけではありません。マスターベーションをすることも男性にとって重要だとも僕は考えます。ただ、性的な興奮を高めるのに、動画だけでなく雑誌や漫画、小説など多様な媒体を使い、ときには妄想だけで試みることを、世の中の男性たちに勧めたいと思います。充実した性生活を維持していくためには、強い刺激と弱い刺激、ときには想像力も働かせ自分の性欲をうまくコントロールしていくことが大切です。

 娯楽が少なかった時代は、性行為が数少ないパートナー同士の楽しみの一つでした。性欲の減退を感じているあなた。帰宅後のスマホやパソコンをやめてみませんか。

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明るい性の診療室
大川玲子先生

大川玲子(おおかわ・れいこ)
千葉きぼーるクリニック婦人科医師
 1972年、千葉大学医学部卒業。同大助手、国立病院機構千葉医療センター(旧国立千葉病院)産婦人科医長などを経て、2013年から現職。日本性科学会理事長、NPO法人千葉性暴力被害支援センターちさと理事長。

今井伸(いまい・しん)
 聖隷浜松病院リプロダクションセンター長、総合性治療科部長
 1997年、島根医科大学(現・島根大学)卒業。島根大学助手、聖隷浜松病院泌尿器科主任医長などを経て、2019年4月から現職。日本性科学会幹事、日本性機能学会評議員、日本泌尿器科学会指導医、島根大学臨床教授。

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