リングドクター・富家孝の「死を想え」
医療・健康・介護のコラム
「老衰」が増えることの意味、医師は自然な死を知らない
2017年は10万人、死因の4位
老衰による死が増えています。戦後、1947年には老衰による死亡者数は7万8000人超でしたが、2000年には2万1000人余りまで減少を続けました。それが今世紀に入ると増え続け、17年には10万1000人超でした。
死亡原因のランキングにも変化が及んでいます。厚生労働省の「2017年人口動態統計(確定数)」(死亡総数134万397人)を見ると、「老衰」は「悪性新生物(がん)」「心疾患(心臓)」「脳血管疾患」に続く4位でした。前年3位だった「肺炎」が5位に下がり、「脳血管疾患」と「老衰」の順位が上がりました。女性だけを見ると、「老衰」は3位になっています。
なぜ、こうなったのか。高齢社会の進展など、いくつかの要因がありますが、大きく二つのことが言えると思います。一つは、「病院死」が減り「自宅」や「介護施設」での 看取 りが増えたこと。死亡した場所の割合を2005年と17年で比較すると、病院・診療所が82.4%から7.6ポイント下がった一方、施設は2.8%から7.2ポイント、自宅は12.2%から1ポイント、それぞれ増えています。
もう一つは、延命治療を望まない患者や遺族が多くなったからです。
医学の進歩で減り続けた
それでは「老衰」とはなんでしょうか?
多くの人が思っているように、ひと言で言えば「自然死」です。具体的に言えば、加齢によって身体機能が低下して死を迎えることです。
一般的に人の死は、その形態によって何種類かに分類されています。自然死、病死、災害死、事故死、自殺、他殺などです。そして、医学的に見た場合の死の原因は、死に至る基本的病態にしたがって分けられています。たとえば、消耗死、脱水死、呼吸不全死、心不全死、中枢障害死、貧血(無酸素)死、代謝死、ショック死、事故死などです。このような死に至るには、その原因となった疾患があり、死因にはそれが記載されることになっています。がんや心疾患などです。
このような直接の死因がない場合、「老衰死=自然死」とされるのです。厚生労働省の「死亡診断書記入マニュアル」によると、死因としての「老衰」は、「高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用います」とあります。
戦後、長い間、「老衰」は減り続けました。それは、医学が発達したため、昔は「老衰」で済ませたものでも、なんらかの疾患が発見されるようになったからです。そうすると、医学的にはその疾患の病名を死因とすることになります。
また、法医学などの講義で、死亡診断書には「なるべく老衰と書かないように」と教えることもあるようです。
大学病院での「老衰」死はほぼない
死亡診断書はどのように書かれるのでしょうか。
大学病院では、患者さんが死んだときはほとんど解剖が行われます。死亡診断書を書くにあたって解剖をすすめることになっているからです。これは、大学病院が診療行為とともに医学研究を行うという使命があるからです。
解剖してみて初めてわかることもあります。たとえば、心疾患で死んだのに、解剖してみると、胃に潰瘍があった、血管に思いもよらない疾患があったなどということはザラにあるのです。がん患者さんではなかったのに、解剖してみて初めて臓器にがんが見つかったこともあります。
つまり、大学病院で死亡した場合、ほぼ「老衰」ということはありません。ただ、「なぜ死んでまで体を切られなければいけないのか」と死後解剖を嫌がる遺族もいます。
そもそも病院に入院するのは原則として病気になったからで、様々な検査を経て病院で亡くなるまでに、様々な病気が見つかることもあります。
一方、高齢の方が自宅や施設で亡くなった場合、かかりつけの医師に死亡診断書を書いてもらう必要があります。状況に不審な点がなければ解剖しないので、死後に思いもよらない病気が見つかることはまずありません。
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日本脳神経超音波学会に行きました。
AIの講義が目当てでしたが、認定脳神経超音波検査士という資格の存在も知りました。
頸動脈エコーからの心疾患検索や脳病変評価の話が多かったですが、脳内や脳血管が超音波でここまで評価できることに驚きました。
エコーは弱点もありますが、ハンディさではピカイチです。
懇親会などで神経内科医の先生とお話しすると、高度スクリーニングはまだ考えられていないようです。マンパワーの限界の問題があります。
また、有名施設でも、頸部病変の影に隠れることもある、血栓を誘発する腫瘍などの疾患の検索は人手が足りないという話でした。
要するに、それぞれが自分の科や施設のことはよく知っているものの、隣の事を知らないわけで、潜在的に医療システムを進化させられる可能性はあります。
最近は全身の臓器連環や血管連環の重要性も言われていますが、画像診断における存在診断と質的診断の分離と、遠隔診断やAIサポートによるワークフローの有機的結合がすすめば、局所スクリーニングから関連疾患チェックへの道筋ができます。
がん、心疾患、脳血管疾患なんて、要するにどこに先にガタが来たかで、診断技術の進歩による老衰の分類と対応策の有無に過ぎません。
昔は症状として顕在化するまでわからなかったものが、今は見えるようになってきました。
老人の誤嚥性肺炎の原因の嚥下力低下の大半は老衰による筋力低下や脳機能低下の産物です。
全体像の中での自分の仕事に集中できる医療人が増えれば、ミスも減り、休みも増えて、他の人の人生の中での疾患や老い、病院の意味についても考える余裕ができるのかもしれないですね。
医療の進歩と保険診療の中で、何が自然死なのかはわかりませんが、他人の幸福な最期を考えられる視座を持てる医療人が増えた方がよいようには思います。
どうせ、カネがないと企業も政治家も動きませんが、まだましな医療サービスがいきわたるように、多くの市民も学んで声を上げる必要はあると思います。
かかりつけ医制度がこういった技術者制度と結びつけば、スクリーニング機能向上により地域での夜間救急の過重労働による医療崩壊を軽減できるのではないかと思います。
またもや地域病院の救急医撤退のニュースもありましたが、思いやりとは相互理解に基づいたものではないかと思います。
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IVR学会に来ています。
画像機器もカテーテルもますます進歩を遂げており、演題やブースを見ていると10年以内にはセミオートの血管内治療も実戦投入されそうな予感がします。
医療の標準化、AIやITの進歩は専門家や専門家のチームの進化も含めて医師(あるいは医療スタッフ全体)の意味やキャリアを爆発的に変えつつあります。
効率的な処理をするベテランが増えるのか、中級までの診断治療が新人に移管されるのかわかりませんが、個が変われば全体も変わるわけで、大学病院や基幹病院の意味やあり方も変わるでしょう。
コストや政治の壁はありますが、全体の治療方針を保ったまま、ターミナルまでシームレスな医療もあり得ます。
科学的なサポートが機械により得られれば、医師の方も人間的な理解の勉強に時間を使うこともできます。
病院べったりの医師にはわからなかった普通の感覚も、いずれ過重労働の科の医師にも求められるのかもしれないですね。
データしか見てないとわかりませんが、極論を言えばバカでも下手くそでも、自分の信じた医師や文化に殉じたい一般人は一定数居ます。
高齢化社会では特にそうですが、人間や社会との相性の問題です。
その辺は世代交代と認識の変化待ちの部分もあります。
一方で、ビジョン共有により、かかりつけ医が大学や基幹病院を間借りする日も来るかもしれません。
その中で、避けられない老衰の意味も変わるでしょう。
そういえば、検査の進歩により不明熱も大幅に減りましたね。
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