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心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」

コラム

ネットオークションにはまり自己破産した32歳女性 借金打ち明けたら夫がやさしくなったワケ

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まずは家族に打ち明けることから

 彼女の話をよく聞いた上で、こう切り出してみた。

 「買い物依存より、まずは借金を何とかするのが先ではないでしょうか?」

 N美さんは、ちょっとビックリした様子だった。しかし、まずはこの「借金サイクル」を何とかしないといけない。

 「こういう時は、『味方』が必要です。ご主人やご両親は、このことを知っていますか?」

 答えは予想通り。家族には買い物癖を隠していた。親しい人たちから責められるのは、イヤだったのだ。

 治療のスタートは、夫や両親に真実を告げることだった。彼女にとっては苦しい作業だが、これを抜かすわけにはいかない。

自分は「病気」…だったら治せる!

 「もう、最悪でした!」と、次回の来院で彼女は報告した。

 「家族からはさんざん責められました。『おまえがだらしないせいだ』って。でも、結局は私のことを心配してくれていたのがわかって、とてもうれしかった。正直に言うって大切なんですね」

 N美さんは少し涙ぐみながらそう語った。

 それは良かったが、借金返済のメドはたたない。両親も夫も、すぐには払えない額だという。知り合いの社会保険労務士や弁護士と相談した結果、「自己破産しかないだろう」ということになった。

 N美さんにとって、苦しい決断だった。社会人として、「失格」の烙印らくいんを押される気がした。でも、仕方がない。自分は「病気」なのだ。病気なら治せる。そのための努力は惜しまない……。

 「自分を責めるのはやめて、ここから『立ち直る』ことに意識を集中しましょう」

 と、外来でもアドバイスした。

 軽い精神安定剤や睡眠薬も、一時的に必要だった。「依存症」のグループにも入ってもらい、いろいろな人たちの話も聞いてもらった。

 「依存症」あるいは「 嗜癖(しへき) 」と呼ばれる状態には、「薬物依存」「アルコール依存」「ギャンブル依存」「恋愛依存」「共依存」「暴力への依存(DV)」など、様々な種類がある。いずれも、脳内のドーパミンという快楽物質が関与している。治療はなかなか難しいが、大切なポイントの一つは、親しい人たちに実情を打ち明けて、「自分にストップをかけるシステム」を作ってしまうこと。自分を見守り、支えてくれる人の「輪」を作ること。ドーパミンによる「強烈な快感」よりも、別の脳内物質であるセロトニンやオキシトシンによる「安心感」を選べるような環境を作り出すことが重要なのだ。

実は夫にも秘密が…

 「自己破産したら、気持ちがずいぶん楽になりました」

 と、N美さんが話せるようになったのは、治療を始めてから3か月後のことだった。

 「あの頃、私はやっぱりおかしくなっていました。家族や友人、会社での信頼関係などはどうでもよく、目の前の商品しか見えてなかった。あらためて振り返ると、本当に恐ろしいことですよね」

 もちろん、これで安心はできない。依存症は、ちょっとしたきっかけですぐ再発する。お店にもネットにも、魅力的な商品が満ちあふれている現代では、特に注意が必要だ。

 「借金のことを打ち明けたとき、夫が、意外にやさしくしてくれたんです。口では厳しくても、この人は私のことを思ってくれていたんだなぁと、とてもうれしくなりました」

 「それはよかったですね」

 「ところが先生、本当は違ってたんですよ。実は、夫にも『隠れ借金』があったんです。しかも私より高額! 発覚して、『仮想通貨がどうのこうの……』と、苦しい言い訳をしていました。むこうはむこうで四苦八苦していて、だから私にはやさしくするしかなかった。それを聞いて、あきれてしまいました。『あなたこそ、さっさと自己破産しなさいよ!』って言ってやったんです。おかげで、少しスッキリしました」

 N美さんはそう話し、楽しそうに笑った。(梅谷薫 心療内科医)

 *本文中の事例は、プライバシーに配慮して改変しています。

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梅谷 薫(うめたに・かおる)
 内科・心療内科医
 1954年生まれ。東京大学医学部卒。90年から同大学で精神科・心療内科研修。都内の病院の診療部長、院長などを経て、現在は都内のクリニックに勤務。「やまいになる言葉~『原因不明病時代』を生き抜く」(講談社)、「小説で読む生老病死」(医学書院)など著書多数。テレビ出演も多い。

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