心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」
医療・健康・介護のコラム
ネットオークションにはまり自己破産した32歳女性 借金打ち明けたら夫がやさしくなったワケ
「先生、今すぐ『買い物依存』を治したいんですっ!」
心療内科の外来を訪れたN美さんは、必死の形相で訴えた。N美さんは32歳の女性。共働きの夫と二人で暮らしている。
初任給で買い物 「ワクワク」「ドキドキ」
もともと彼女は、買い物が大好きだったという。小さい頃に買ってもらった、かわいい人形が大好きで、人形用の洋服や家のセットを次々にねだっては買ってもらった。一人っ子だったこともあり、「これ買って!」と言えば、たいていのものは買ってもらえたのだ。好きな物を手に入れる喜びを、彼女は満喫して育った。
しかし、高校生の時、父親の事業が破綻。一家は、小さなアパートに引っ越した。N美さんも、思い出の品をたくさん手放さなければならなかった。「いつか、また買ってあげるからね」と話しかけながら、大好きだった人形に別れを告げた時は、自分の一部がもぎ取られるようで、涙が止まらなかった。
彼女が、また好きなものを買えるようになったのは、大学を出て、IT系の会社に勤め始めてからだ。初めての給料で思い出の人形を買った。「また会えたね」と語りかけた時は、思わず涙が浮かんだ。
最初はあまり無理もできず、100均やスーパーなど、比較的安いお店でショッピングを楽しんだ。それでも、生活にワクワク、ドキドキが戻ってきた。
競り落としたときの深い満足感
28歳で会社勤めの夫と結婚してからは、共働きを続けた。家計は楽ではなかったが、多忙な仕事のストレスを発散できるのは、ショッピングだった。N美さんの買い物癖は、どんどんエスカレートしていった。
さらに、N美さんがはまったのは、ネットショッピングとオークション。とくにオークションは、好きな物が安く手に入る上、競り落とすときのスリルがたまらない。ねらった商品を、競合する買い手とギリギリまで争い、競り落としたときの深い満足感は、何ものにも換えられなかった。
買った後で、自分に必要ない物だったとわかって後悔することも多かった。それでも、一度、気に入った商品を、他人に競り落とされるのは我慢できなかった。そんな悪循環に、すっかりはまってしまったのだ。
自分の給料では足りなくなり…
この頃になると、さすがに自分の給料では間に合わなくなってきた。しかし、夫はお金に厳しい人で、お小遣いを欲しいとは言い出しにくかった。クレジットカードでの買い物も限界に達し、ローンに手を出した。どうしても欲しいバッグがあり、競り落とすためにサラ金で借りたのだ。借金はどんどんふくらみ、400万円を超えた。さすがに「これはまずい」と思った。
「友だちに相談したら、それは『買い物依存って病気だよ!』と言われたんです。このままでは、私はダメになってしまいます。何とか治してほしいんです」
N美さんの訴えは、切実だった。
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