産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
ヤマアラシのように適度な距離を探せ、対人ストレス乗り越える3回トライアル法とは
対応が大事な過剰ストレスの半健康者
このコラムの第1回「メンタルヘルスはなぜわかりにくいのか」で説明したように、働いている心の状態を正確につかむのは難しいのですが、ストレスを切り口に考えることで様々なことが見えてきます。
働いている人のうち、ストレスが原因でうつ病や適応障がいといった病気や障がいを抱えている人は1割程度で、心の健康が健常な状態にあるのは6割程度といわれます。
その間に位置するのが、勤務はしているものの、過剰なストレスによってしんどい人たち。健常と病気の間に位置するという意味で「半健康者(公衆衛生学者の荒井保経博士が提唱)」と呼ばれます。我々の調査では26%くらいが該当します。
「健常者」と「半健康者」、「病気や障がいの人」は境界線があいまいで、連続して存在していると考えられます。半健康者が、さらなるストレスや疲労を抱えることになれば「病気や障がい」になる可能性がありますし、ストレスの要因を取り除くなど、うまく対応すれば健常者に戻ります。
2014年に従業員のストレスを把握するための検査(ストレスチェック)が大規模な事業所で義務付けられましたが、過剰なストレスを抱えている人を見つけ出し、病気に陥る前に健常者に戻すように努めることが目的の一つです。
対人ストレスにどう対処するか
今回からストレスについて考えていきますが、まずは人間関係に伴う「対人ストレス」。働くうえで避けられず、蓄積されやすく、多くの人が直面するストレスといえます。
人間関係によって過剰なストレスを抱えてしまった場合は、どうすれば普通の状態に戻れるのでしょうか。
ある金融機関で行われたストレスチェックで、「高ストレス者」の判定を受け、産業医の面談が必要と判断された女性社員(26歳)の事例を見ていきましょう。面談に入ると、彼女は開口一番、同僚女性への不満をまくし立てました。
「キャピキャピ、ウザイ……。甘えるようなしぐさがムカつくんです」
聞けば同僚女性との意思疎通を欠き、書類上のミスが生じ、上司に叱責されたそうです。自分だけ注意を受けたが、「私だけが悪いのではない。責任は彼女も同じはず」と主張します。その後、同僚社員のことが頻繁に思いだされるようになり、イライラしたり、眠れなくなったりしているそうです。
相談者は銀行の支店に勤める大卒・一般職採用です。同僚は、転勤してきた同じく一般職の女性(27歳)で、その同僚は「最初、会ったときから相性が悪い人」と感じたといいます。地味なタイプの相談者と違い、同僚はおしゃれでキャピキャピしたタイプ。
キツイ表情で批判を繰り返します。「化粧が濃い。甘えるような声やしぐさがイヤ」「『銀行員なら男に媚びずに仕事をキッチリやりなさい』と言いたい」「打ち合わせや会議、ランチ、雑談など一緒になるときは苦痛」と訴えました。
私は2回の面談で彼女の訴えに耳を傾けたあと、3回目の面談で言いました。
「最初の印象だけで判断するのはよくないです。女性もいろいろなタイプがいるので、相性が悪いと先入観を持たずに接してみてはどうですか。今のままでは人間関係の幅を狭めてしまい、働く上で将来マイナスになりますよ」
「では、どうすれば私はラクになれるのですか」と彼女は聞いてきました。
そこで、彼女に伝えたのが「ヤマアラシのジレンマ」でした。
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