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壁は厚いが退却はできない認知症の新薬開発…岩坪威・東大教授に聞く(下)

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 認知症の治療薬開発では、いくつもの候補が臨床試験(治験)の最終段階まで進みながら、その最後の壁を乗り越えられずにいる。膨らむ一方のコストに耐え、認知症の根本治療薬を生み出すことはできるのか。東京大の岩坪 たけし 教授に、見通しを語ってもらった。(ヨミドクター 飯田祐子)

原因物質や認知機能の検査 より手軽で正確に

  ――認知症の原因物質といわれるアミロイドβ(Aβ)というタンパク質を標的とする薬の開発は、より早い段階を対象とするようになっていくとの予測ですが、軽度認知障害(MCI)よりさらに前となると、全く症状がないのではありませんか?

 その段階で認知症の前兆を見つけるには、脳内のAβの蓄積を調べることになります。現在は、アミロイドPET(陽電子放射断層撮影)や脳脊髄液検査などが行われていますが、特殊な機器が必要だったりして、検査が大がかりになるため、誰もが簡単に受けられるわけではありません。

 血液中の特定の物質の濃度から、Aβや、Aβに続いて増えてくるタウというタンパク質がどれくらい脳内にたまっているのかを測る検査法の開発が進んでいます。少量の血液で調べることができ、検査が簡便になります。

 ――実用化されれば、検査を受ける人が増えて早期診断にもつながりますね。

 このように体内の状態を客観的に測定、評価するための指標をバイオマーカーといいます。有用なバイオマーカーを見つけ出し、より手軽で、速く、正確に脳内の状態を調べる検査法を実用化することが、治療薬開発の後押しになります。

 自分の脳にAβがたまっていることが分かれば、不安になる人も多いでしょう。Aβの蓄積で認知症になるリスクは高まるが、必ず、また、すぐに発症するわけではないということを説明し、疑問に答えてゆく体制も整える必要があります。

  ――まだ症状がない段階では、薬によって病気の進行がどの程度抑えられたのかを明らかにするのも難しいのではありませんか。

 記憶などの認知機能を調べるのにも、より簡便で精度の高い検査法を使うことが大切です。

 健康でAβがたまっていない人が認知機能検査を繰り返し受けると、慣れて点数が上がっていく「学習」の効果が表れます。ところが、まだ認知症の症状はないがAβがたまっている人の場合はこの効果が見られず、点数は横ばいか、あるいはわずかに低下することが、我々の研究でも分かってきました。従来の認知機能検査では、どちらの人も正常範囲内で、両者の違いが分かりにくかったのです。

 バイオマーカーと認知機能検査の精度を上げて、こうした小さな差や変化を正確に捉えることができるようになれば、短期間の小規模な臨床試験でも薬の効果をある程度、判断することが可能になります。その段階で有望な薬のみが大規模な臨床試験に進めるようにすれば、効率が上がります。

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2件 のコメント

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アルツハイマーと類縁疾患の4次元解析

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

神経学会でアルツハイマー病の診断治療や新規治療薬の動向を学び直しました。 誤解を恐れずに言えば、類縁疾患も含めて、診断基準や疾患概念の練り直しを...

神経学会でアルツハイマー病の診断治療や新規治療薬の動向を学び直しました。
誤解を恐れずに言えば、類縁疾患も含めて、診断基準や疾患概念の練り直しをしないと新薬は難しいように思えました。
血管とアミロイド、タウタンパク以外の要因がおそらく複雑に絡み合っています。

そして、健常人や認知症の概念も人によりや地域により異なりますよね。
ある一定の情報刺激や物理的刺激を与えられた時に、感じる事、考える事、動くこと、がそれぞれ違うという機能の差異がありますし、そういう経験の差異は脳や脊髄だけでなく、様々なところに影響を与えます。
神経内科なんか特に顕著な疾患もあります。
特定部位の萎縮や肥大の疾患があります。

その中で、患者さんや家族の理解や動線も含めて、今後、各科医のクロストークが重要になると思います。
かかりつけ医や老年内科、神経内科、精神科に丸投げというのは無茶な話でしょう。
一見関係なさそうで、小児科や精神科、整形外科の発達の先生や循環器内科医、消化器内科医の意見も大事かもしれません。

人は生まれた瞬間から死に向かいます。
それは、成長か、成熟か、衰えか?
自分自身、サッカーを続けてきて、回復力の最大は10代後半か20代前半でしたが、最大筋力は20代後半、巧緻性や戦術動作を伴った動作に関していえば、30代半ばが良かったように思います。
衰えたり、壊れた部分もありますが、残されたものの中で、向上しているものはあります。

若者と老人、専門家と非専門家、田舎と都会の共生、古い知見と新しい知見の共存も含めて、人類や医療社会が試されているのかもしれません。
長生きゆえの「幸福な病」を治すのか、付き合うのか?
そこには医科学だけでなく、宗教や政治も絡みます。
カルテや画像診断、理学所見の非完全性も含めて向き合っていく必要があります。
中でも最先端画像診断機器の重要性は大きくなります。

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再考が必要な知識的矛盾やワークフロー

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

癌もそうですが、局所と全身の炎症と回復のバランスこそが人間の生命活動=加齢です。 免疫も血流も、アクセルやブレーキを司る様々な機構があります。 ...

癌もそうですが、局所と全身の炎症と回復のバランスこそが人間の生命活動=加齢です。
免疫も血流も、アクセルやブレーキを司る様々な機構があります。
脳細胞が異常発火すればてんかんで、正常発火できないような状態がアルツハイマーを含む脳の血流異常や代謝異常です。
その中に、認知機能障害を伴う様々な異常が紛れ込んでおり、その症状の多様性や評価の多様性が一般人だけでなく、医師や研究者の理解も困難になっています。
医療の客観的情報の取得や評価も、一定のルールや取扱者がいるだけで、他の主観的な存在により測られたものに過ぎません。

先週東京で行われた病理学会に参加してきましたが、病気や死へのプロセスの中で、社会的な問題、ワークフローの問題の改善がなされれば、より良い予後や健康寿命、本人や家族の精神的な受け入れなどが出来たかもしれないケースをいくつか見つけました。

アルツハイマー病だけでなく、レヴィ小体認知症や脳血管性認知症などがありますが、それらの境界領域や共通のプラットフォームなんかも議論の対象になります。
縦割り行政の弱みを疾患は突いてきます(という表現が人間社会主体の傲りですが)。
病理学会ではある精神疾患にピック病の病理的特徴を示したものの、発症は明らかでなかった演題などありました。

こういう従来の医学と整合性がつかなかい情報に出会った時に、退却は出来なくても、後退や迂回した方が良いことはあり得ます。
一方で、知見の共有も含めて、総合的な施策を創出していく必要があります。
焚書坑儒は知識をシェアする概念の無かった頃の言論統制の政治政策で、よりオープンに近づけていく必要があります。

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