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食べること 生きること~歯医者と地域と食支援

コラム

3か月で体重8キロ減、それ、異常事態です!

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五島さんは自転車で家庭を訪問する

 先日、1年ほど前から定期診療している女性(87歳)の自宅を訪問しました。介護に熱心な娘さんと2人暮らし。アルツハイマー型認知症ではありますが、大きな病気はなく、お口の状態も良く、食欲もあります。口腔こうくうケアと歯の検診目的で2か月に1回の診療です。ただ、前回は、お母さまが体調不良なので訪問を延期してほしいと娘さんから連絡がありました。結局延期が3回重なり、この時は4か月ぶりです。
 部屋に通され、ご本人の顔を見た瞬間凍り付きました。いすに座ってはいるものの背中は丸く、頬はげっそりとこけ、顔は青白く、目の輝きはなくなっていました。あまりの変わりように声が出ませんでした。娘さんは、「3か月ぐらい前から、口の中に食べ物を入れてもなかなか飲み込めないんです。毎日のように発熱もあってデイサービスにもなかなか行けませんでした。この3か月で体重が8キロも減って36キロになってしまいました」と言います。

毎日接していると異常に気づかないことも

 皆さんはこのエピソードを読むと、何か異常が起こっていると思うでしょう。しかし、高齢者が調子を崩すのは日常的なことのように受け止めて、改善が必要な事態が起こっているにもかかわらず、様子を見て済ませてしまうことがよくあります。「もう、この年だから」と。毎日接しているご家族だけではなく、医療や介護にかかわる主治医、訪問看護師、ケアマネジャー、ホームヘルパー、そしてデイサービスの職員たちも見過ごしてしまうことがあるのです。
 高齢者の栄養状態に着目している歯科医として思うのは、異常に気付くためには、だれにでもわかりやすい基準が必要ということです。

入れ歯を外したままが当たり前になると……

 今から20年以上前の話ですが、訪問歯科診療を始める前、在宅医の診療を見学したことがあります。その先生は歯科医の僕がいるので、患者さんや家族に「お口の中に問題はありませんか?」と聞いてくれました。どこへ行っても「うちは特に問題ありません」「大丈夫です」という答えです。ところが、どのお宅でも入れ歯を外して使っていなかったのです。入れ歯を外しているのは当たり前で、その状態で食べられるものを食べていました。歯科医から見れば、入れ歯を使えないというのは、大問題です。入れ歯を入れれば、食べやすくなって栄養状態も良くなるのですから。
 現在、各地で訪問歯科診療が行われていますが、その件数はごくごく少ないものです。要介護度の高い方たちのほとんどは歯科診療必要な方たちだということがあまり理解されていません。

「入れ歯が使えなくなった」などが専門職相談の基準

 入れ歯を使えないのは当たり前、高齢者は時々体調を崩すもの……と周りが受け止めてしまうと、改善の機会を失ってしまいます。だからこそ、わかりやすい基準が必要なのです。「調子が悪くなったら連絡してください」とか「何か口の中に問題があったらご連絡ください」と言われても、「調子が悪い」や「問題あり」のイメージは人それぞれでしょう。しかし、「今まで使用していた入れ歯が使用できなくなったら」「食事時間が3か月前より2倍以上かかるようになったら」「3か月前から体重が3キロ減ったら」――連絡してくださいと伝えておけば反応しやすいですよね。
 僕は、地域での食支援活動では、「何か食に問題がある人を見つける」→「適切な人につなぐ」→「結果を出す」という流れを作ることが必要だと提唱しています。誰かが異常を見つけなければ始まらないのです。医療、介護専門職はそのためにわかりやすい基準を社会に訴えなければならないと思っています。

87歳の女性は、ゼリー状の栄養剤などで回復

 前述の87歳の女性。僕の訪問時、熱の原因は誤嚥ごえん性肺炎かもしれないと娘さんに伝えたうえで、市販のゼリー状の栄養剤(カロリーメイトやウィダーinゼリーなど)を積極的に取るように伝えました。1週間後に再訪問した時は食欲も回復し、熱もあまり出なくなり、瞳の輝きも戻っていました。誰かが気づけば結果は出るのです。(五島朋幸 歯科医)

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五島朋幸(ごとう・ともゆき)
歯科医師、ふれあい歯科ごとう代表(東京都新宿区)。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。新宿食支援研究会代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」、「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」パーソナリティーを務める。 著書は、「訪問歯科ドクターごとう1 歯医者が家にやって来る!?」(大隅書店)、「口腔ケア○と×」(中央法規出版)、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」(大隅書店)など

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