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アルコール依存症に国内初の飲酒量低減薬が登場

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アルコール依存症に国内初の飲酒量低減薬が登場

(C)Getty images

 アルコール依存症の治療に変化が起きている。国内初の飲酒量低減薬ナルメフェン(製品名セリンクロ)が今年3月5日に発売されたことで、かつての酒を一切断つという「断酒」を中心とした治療から、飲酒の量を減らす「減酒」という治療法が今後広がることが期待されている。3月28日に東京都で講演した久里浜医療センター院長の樋口進氏は、「ナルメフェンという治療薬は、アルコール依存症の課題であった治療を途中で止めてしまう”ドロップアウト”を防ぐツールになる」と同剤登場の意義を強調した。

低い受診率、受診者は5万人

 世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第10版(ICD-10)の診断基準では、渇望、飲酒行動のコントロール困難、離脱症状などの6項目のうち、過去1年間で3項目以上当てはまるとアルコール依存症と診断される。離脱症状とは禁断症状ともいわれ、飲酒を我慢すると手の震えや発汗、いらいら、幻覚などの症状が現れるのが特徴だ。

 国内のアルコール依存症者数は107万人と推定されるが、治療を受けている人は年間5万人にすぎない。医療機関の受診には、「アル中」のレッテルを貼られる、強制的に断酒をさせられるなどのネガティブなイメージがつきまとい、飲酒で問題を抱えている人の受診率の低さにつながっている。

 依存症には至らないが、飲酒後に記憶をなくす、飲酒運転をする、傷害やDVなどで警察沙汰になるといった予備群ともいえる多量飲酒者はもっと数が多く、約440万人に上ると推定されている。

飲酒量低減の第一選択薬に

 アルコール依存症の治療は、これまで抗酒薬や断酒維持を目的とした断酒補助剤しかなく、断酒一辺倒だった。そのため、治療を途中で止めてしまう人が多いことが課題として指摘されていた。

 それに対し、ナルメフェンは選択的オピオイド受容体調節薬で、中枢神経系に広く存在するオピオイド受容体に選択的に結合して飲酒欲求を抑えることにより、抵抗感なく飲酒量を抑制する効果がある。飲酒の1~2時間前に服薬する。

 アルコール依存症者約660人を対象に行われた国内第Ⅲ相臨床試験では、ナルメフェンまたはプラセボを心理社会的治療と併用し、24週間頓用して有効性を検討した。その結果、プラセボ群に比べてナルメフェン群では、多量飲酒した日数や総飲酒量が有意に減少していた。樋口氏は「多量に飲酒する日数も1日の平均飲酒量も低下しており、ナルメフェンは飲酒量低減治療に有用である」と評価した。

 有害事象として、悪心、浮動性めまい、傾眠などが報告されたが、樋口氏は「患者に副作用について事前に説明することで、治療中断は避けられるのではないか」とした。そのうえで、治療目標を飲酒量低減とした場合、「ナルメフェンが薬物治療の第一選択薬になる」と語った。

「減酒外来」を開設、軽症者の早期治療につなげる

 久里浜医療センターは国内のアルコール依存症治療において中核的な役割を担っているが、依存症者に加えて、軽症者や予備群である多量飲酒者にも間口を広げるため、2017年4月に国内初の「減酒外来」を開設した。

 樋口氏によると、軽症のアルコール依存症の患者は、飲酒問題が少ないため、飲酒の仕方に疑問を感じても医療機関などへの相談や受診をためらうケースが多いという。同外来には、飲酒が気になる人からアルコール依存症と診断された人まで幅広い層の受診が可能。受診者の中には、治療により飲酒量が明らかに減った人がいるなど、一定の成果を挙げているとした。 

 一方、昨年には、日本アルコール・アディクション医学会と日本アルコール関連問題学会により『新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン』が改訂され、アルコール依存症の治療を専門としないプライマリケア医や内科医にも治療に対応するための基準が示された。これに対し、従来のガイドラインは重症のアルコール依存症者を対象としたもので、精神科医などが治療の中心を担っていた。

 飲酒量低減薬という新たな治療薬の登場に加えて、患者に身近な内科などのプライマリケア医がアルコール依存症を治療できる環境が整備されつつあることから、樋口氏は、特に軽症者の早期発見、早期治療により進行予防につながることに期待を示した。

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