しあわせの歯科医療
医療・健康・介護のコラム
お口の掃除で認知症を予防できるか?
お口の健康は、認知症の発症や認知機能低下と関連している
中高年になると、家族など身近な人が認知症を発症したり、自分自身もモノ忘れが増えたりするので、認知症に関心を持たざるを得ません。治せる薬はなく、今後10年はそういう薬は出てこない見通しとも言われるので、予防には関心が向かいます。運動は有効で、さらに運動をしながら頭を使うのもいいとされています。都会に出てきて地下鉄などを使って目的地にたどりつくなんて、まさに頭を使いながらの運動と指摘する専門家もいます。それもいいことですが、実はお口の健康も認知症に関連する要素の一つです。
日本 口腔 衛生学会は一昨年、「認知症に対する口腔保健の予防的役割」と題した政策声明を発表しました。「政策声明って何?」と文書の責任者である新潟大学歯学部教授の 葭原 明弘さんに尋ねると、「現段階で科学的にわかっていることを整理して、認知症予防という観点からもお口の衛生管理を進めましょうと国民に呼びかけたもの」というお話でした。
では、お口の状態がどのように認知機能や認知症にかかわってくるのでしょうか。
食べ物をしっかり噛んで食べないと認知症になりやすい
関連をはっきりと示している研究の一つが、声明チームの一員である神奈川歯科大学教授の山本龍生さん=写真=の分析(上のグラフ)です。
認知症の判定を受けていない65歳以上4425人を4年間追跡しました。入れ歯が使いにくいためか、「歯がほとんどないのに食べる時に入れ歯を使っていない人」は、「20本以上自分の歯が残っている人」よりも、1.85倍、認知症になりやすかったのです。でも、歯がないとやっぱりダメなのか、とがっかりする必要はありません。この研究で注目すべきもう一つのポイントは、歯がほとんどなくても「食べる時に入れ歯を使っている人」は、歯が残っている人と認知症の発症率に差はありませんでした。 噛 める入れ歯を使っていれば、自分の歯が残っているのと同様の効果があることがわかったのです。
それでは、どうして噛むことが認知症と関係しているでしょう。山本さんは三つの理由を挙げています。ひとつは、 咀嚼 をせずに軟らかいものばかり食べていると、大脳の 海馬 や 扁桃体 といった認知機能にかかわる領域への刺激が減ること。もう一つは、栄養の偏り。よく噛めない人は、食べやすい菓子パンや麺類などが多くなり、生野菜などのビタミン類が不足しがちと言います。ビタミン類が不足すると認知症になりやすいことがわかっているそうです。三つ目の理由は歯周病。歯が抜けるのは歯周病が大きな原因です。歯茎の炎症から出てくるサイトカインと言われる物質などが血液を通って脳に影響を及ぼす経路などが考えられています。
山本さんは「因果関係については、まだ、仮説の域を出ませんが、口の健康と認知症に関係があるのははっきりしている」と言います。
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