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生きやすい社会に学ぶアイデア

コラム

こころが楽になる支援とは――オープンダイアローグに学ぶ(1)

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こころが楽になる支援とは――オープンダイアローグに学ぶ(1)

 精神面の困難に直面した人たちのうち、80%以上の人たちが回復しているーー。

 国内では半数に達すれば高いはずなのに、それを上回る地域が海外にあると聞いて、いてもたってもいられなくなり、私は2015年夏に旅立ちました。行き先は、ムーミンで有名な北欧の国フィンランドの北西部の小さな町トルニオでした。

 精神科医の森川すいめいです。このコラムは、旅を通して発見した、どのようにしていけば人の心は楽になるのか、ということを中心に紹介していきたいと思っています。旅先で学んだその考え方は「オープンダイアローグ」と呼ばれていました。日本語では「開かれた対話」という意味です。

即時援助がいい

 私はその頃、都内の精神科の小さなクリニックで、訪問診療と外来を始めていました。不安や恐怖、深い落ち込みなどの、精神面で困難な状態にある人たちがSOSを発信したら、すぐに会えるような働き方をしたいと思ったからでした。

 日本では、精神面で困難に直面してから、精神医療に相談できるまでに平均1~2年かかると言われています。支援へのアクセスのしにくさや、精神疾患への偏見などが背景にあります。すぐに相談できる人もいますが、その一方で、何年間も相談できずにいる人たちもいます。

 それ以前に勤務していた病院では、何らかの理由によって精神状態が悪化し、悪化することで周囲から孤立するなど、困難が困難を呼び、どうにもならなくなってようやく来院される人が少なくありませんでした。いらっしゃったときには不安と困難で色々なことが埋め尽くされてしまっていました。

 「もう少し早く出会いたかった」。病院にたどり着くまでに時間がかかる人と出会うたびに、もどかしさが募りました。そこで、自ら相談者のもとを訪ねる訪問診療ができるクリニックに移りました。

 クリニックに移ると、地域の支援の方から困っている人がいるから助けに入ってほしい、という依頼をいただくようになりました。すぐに困っている人たちの住まいに足を運ぶことで、困難を軽減しやすくなると確信していきました。

 しかし、間もなくすると予約枠がいっぱいになり、私はすぐに対応できなくなっていきました。どうしたらいいのか。悩んでいるときに耳にしたのが、精神面の困難を抱えた人を支えるフィンランドの町トルニオでの、オープンダイアローグという対話を続ける取り組みでした。さっそく私は、その発祥の地であるケロプダス病院に向かいました。

ゆったりと働く

 ケロプダス病院は24時間窓口を開けており、住民から相談があれば、スタッフが24時間以内に相談者たちに対応する仕組みを持っています。精神面での困難を感じてから精神医療に到達できるまでの期間が日本の平均1~2年に対し、ケロプダス病院周辺の地域では平均3週間でした。困ったらすぐにも、病院に連絡できる仕組みができていました。

 しかし、毎月数百人の相談を必要とする人たちに、すぐ対応する仕組みを稼働させようとすると、かなりの数のスタッフがそろっていなければ、成り立たないはずです。私は「一人ひとりがどれほどたくさんの量の仕事をしているのか」と心配になりました。

 現地のスタッフたちに話を聞いていくと、勤務は朝8時に始まり夕方4時には帰ることができていて、残業はほとんどないそうです。夏休みは1か月間とれるとのこと。当時、医師は8人程度しかおらず、しかも医師一人ひとりの診療時間が60分とることができ、相談者は話し足りなければ翌日も翌々日も会えるというのです。10分程度しか診療時間を作れず、診療日も1~4週おきという日本とは大違いです。

 「この人数でいったいどうやって相談に対応できるのか」と思い、私はたくさんの質問をしました。

対話の訓練を受けた約80人のセラピストたち

 「話を聴くセラピストは2人以上。必ずしも医師が含まれなくてもいいの」。私の質問にこんな答えが返ってきました。

 ケロプダス病院には、看護師や心理士などのセラピストスタッフが約80人いました。しかもセラピストスタッフは、オープンダイアローグに関わる訓練を3年以上受けていました。精神面の困難に直面した人かその周囲の人が病院に連絡をすると、24時間以内にセラピストスタッフが2人以上で(医師が含まれる場合もある)、相談者の自宅などに赴いたり院内に招いたりして話を聴く体制を作っていました。

 私は訪問診療で精神面の困難に直面している人たちと会うたびに、精神科の診断や薬よりも先に、人間関係や介護・福祉サービスなどを調整する手伝いをすることで、困難の多くが軽減する現実を見てきました。

 ケロプダス病院では、訓練を受けた専門知識があるスタッフたちが、すぐにそして何度も対話を行うことによって困難な状況にある人たちを助けていました。私は日本で活動を続けていくうえでのたくさんのことを学びました。

 このコラムでは、オープンダイアローグの学びを軸に、困難を抱えた人たちをどう支援していけばいいのかについて、考えを書いていきたいと思います。(森川すいめい 精神科医)

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森川 すいめい

精神科医、しんきゅう

 1973年、東京都豊島区生まれ。二つのクリニックにて訪問診療や外来診療を行う。2003年にホームレス状態にある人を支援する「TENOHASI(てのはし)を立ち上げ、現在は理事として東京・池袋で炊き出しや医療相談なども行っている。10年、認定NPO法人「世界の医療団」ハウジングファースト東京プロジェクト代表医師、13年同法人理事に就任。一般社団法人つくろい東京ファンド理事。オープンダイアローグ(OD)国際トレーナー養成コース2期生。著書に、障害をもつホームレスの現実について書いた「漂流老人ホームレス社会」(朝日文庫)、自殺希少地域での旅の出来事を記録した「その島のひとたちは、ひとの話をきかない」(青土社)などがある。

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