うんこで救える命がある 石井洋介
医療・健康・介護のコラム
うんこで読み解く病の今昔
北里柴三郎が新千円札の肖像画になるみたいですね。現在の千円札に描かれている野口英世と、北里の共通点をご存じでしょうか。
北里は19世紀後半、破傷風の血清療法の確立やペスト菌の発見で活躍、野口は20世紀に入り黄熱病の研究に尽力しました。2人は、菌やウイルスによって起こる病気と戦った偉大な感染症の研究者であり、野口が北里の研究所に助手として入り、実質の弟子となりました。
当時、世界では感染症をどう予防、治療するかが大きな課題でした。そして、感染症とうんこは切っても切れない関係にあります。特に、うんこを介して感染が広がるコレラは19世紀、イギリスをはじめ世界各国で大流行し、人々を恐れさせました。下痢症状を起こし、死にも至るためです。
近代化と都市化が進む中で、人々が都市部に集中し、うんこを適切に処理しきれなくなったこともあり、コレラの流行につながりました。
日本では海外との交易が盛んになった明治時代に入り、コレラは流行しました。10万人以上が死亡した年もあります。その後は、結核菌が原因の結核患者が増え、毎年10万人前後が亡くなりました。昭和時代前半までは感染症が猛威をふるいました。
世界的に、うんこは感染を広げる要因の一つとして隔離される対象になりました。上下水道を完備する中でコレラによる死亡は減少しました。研究者たちの努力で抗生物質やワクチンが開発され、感染症によって命を落とす人は劇的に減りました。
入れ替わる病の「主役」
感染症にかわって、現代は、がん、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患、心筋梗塞や狭心症などの心疾患、という、細胞や血管の老化によって引き起こされる病気が3大死因を占めるようになりました。
現代の代表的な病気と、かつて脅威だった感染症との大きな違いは、発病の初期に症状が表れるかどうかではないでしょうか。感染症は、咳(せき)、熱、下痢など様々な症状が出るため、本人が病気になったと自覚しやすいものです。
これに対し、がん細胞が体の中に生まれても、すぐに気付くのは難しいものです。例えば大腸がんは、日常生活を送る中で静かに進行し、なかなか症状が出ないといわれています。「Silent Killer(サイレントキラー)」と呼ばれるゆえんです。
高血圧もほとんど症状が表れません。測定しなければ自分が高血圧であると気付かないままの状態が続きます。治療せずに過ごしていると、脳梗塞や心筋梗塞による死のリスクが高まるとされています。
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