陽子のシネマ・クローゼット
医療・健康・介護のコラム
英国の気品が漂うラブストーリー ポリオ患者と妻の「初めて物語」…『ブレス しあわせの呼吸』
プロデューサーの両親の実話
映像の美しさとイギリスらしいウィットとセンスがちりばめられた『ブレス しあわせの呼吸』(2017年)は、『ブリジット・ジョーンズの日記』や『エリザベス:ゴールデン・エイジ』など、数多くの映画製作を手がけるイギリスの名プロデューサー、ジョナサン・カヴェンディッシュの両親の実話だ。
1958年、出張先のナイロビでポリオウィルスに感染したジョナサンの父、ロビン・カヴェンディッシュ(1930年〜1994年)は、首から下が完全まひになり、人工呼吸器なしでは生きられない重篤な状態に。28歳の若さで余命数か月と宣告され、その時、妻のダイアナはジョナサンを妊娠していた。
1960年、ダイアナは無事にジョナサンを出産した後、ロビンを連れてイギリスへ帰国。専門病棟へ入院し、人工呼吸器につながれた自分を哀れむロビンに、ダイアナはひたむきに寄り添っていた。ある日のこと、ロビンが妻に伝えた「ここ(病院)から出たい」という一言から、カヴェンディッシュ一家の挑戦が始まる――。
ワクチン普及前は大流行
ポリオ(急性灰白髄炎、小児まひ)は、今では、WHOが地球上からの根絶を掲げ、実際にその目標に近づきつつある感染症だが、ワクチンが開発される1950年代までは、世界各地で流行を繰り返していた。日本でも、1971年、1980年の各1例の後は国内では発症していないが、ワクチン導入前の1960年には、全国で5600名を超える未曽有の大流行を経験している。
本作では、ポリオによるまひ患者がたくさん生まれた当時を物語る衝撃的なシーンが描かれている。画期的とされる管理体制でポリオ患者が収容されていた「最新の療養施設」では、患者は整然と並べられ、まるで植物工場の機能性野菜のような光景だった。そこには、生活の質という観点など、みじんも感じられない。
医師の反対を押し切り退院
重度の障がいがあれば、一生病院のベッドで寝たきりで過ごしていた時代に、ロビンとダイアナは医師の反対をはねのけ、人工呼吸器をつけての在宅療養を決意する。それは今まで誰もやったことがなく、命のリスクも伴うのだが、病室から解放されたロビンは生きる気力を取り戻す。
好奇心とアイデアに満ちた彼らは、人が予想もつかない方法で、立ちはだかる困難を克服する。乳母車にヒントを得て、人工呼吸器搭載の革命的な車いすを考え出したロビンは、友人に製作を依頼。さらには自動車に載せられる車いすも開発してもらい、行きたい場所へ行く自由を手に入れた。
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