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食べること 生きること~歯医者と地域と食支援 五島朋幸

医療・健康・介護のコラム

なぜか、車いすの調整で飲み込みが順調に!

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 脳梗塞の後遺症で右半身にまひがある88歳の男性がいました。食事は車いすに座った状態で、家族の方がスプーンを口元に運んでいましたが、食べ物を口に入れてモグモグしてもなかなか飲み込めません。スプーンひと口に数分かかってしまい、食事時間は毎回1時間を超えていました。そんな時に、理学療法士と福祉用具専門相談員、家族で相談をして車いすの調整をしました。するとその日からスムーズに飲み込めるようになり食事時間は約30分と半分になりました。
 あるんです。魔法ではなくこういうことが。今回は食べるための環境のお話です。

噛んで飲み込めるのに、自分で食事ができないのは?

 高齢や病気によってんだり、飲んだりという食べる機能が低下することがあります。元の状態に戻ることもありますが、いくら訓練をしても機能が低下したままのこともあります。また、噛んで飲み込むことはできるのに、手が動かないとか、視力の低下で食事が見えないため自分で食べることができない方もいます。このような時に考えるのが、「食の環境」なのです。
 食の環境とは何か。食事をする時の姿勢、大きさや軟らかさなど食品の質や形態、箸やスプーンといった食具、お皿やおちゃわん、机やテーブル、部屋の明るさや温度などなど。つまり、食事をする場面のほぼすべての環境と言えます。

食べる姿勢や食品の形態も重要

 例えば食事の姿勢。高齢者がいすや車いすで食べる時、不自然に横に傾いたり、後ろにのけぞったりしている方がいます。筋力が弱く、まっすぐの姿勢が保てないのです。そうすると、椅子から落ちないように自然と全身に力が入ってしまいます。力んでしまうと、食べる動きに必要な筋肉にも不自然な力が入って、食べる機能が低下してしまうのです。また、一般的なテーブルやいす、多くの車いすは成人のサイズに合わせたものです。そこに小さな高齢女性が座ったらどうなるでしょう。ひじ掛けが邪魔になって食べ物が取れなかったり、テーブルの上の食べ物を見上げたりすることになってしまいます。これでは食べられません。
 また、食べる機能が低下した人にはその人に合った食べ物の形態で提供しなければなりません。歯が悪く、よく噛めない方に硬くて大きな塊を出しても食べられません。軟らかく調理したり、小さくカットしたりすることで食べられるようになります。飲み込みが悪い方はトロミを付けるといった方法で安全に飲めるようになります。
 食べる機能というと、噛んで飲み込むことを思い浮かべるかもしれませんが、食べるための環境調整も大変に重要です。リハビリは本人が取り組んでもすぐに効果は出てきませんが、こちらは、周囲の人ができて、即効性があります。

座ったお尻が安定しないと食べにくい

 冒頭の88歳の男性の場合、車いすの座る面が広く、ベッドから車いすに移乗した時にお尻が安定せず、足がフットレストと呼ばれる場所から浮いてブラブラとしていたのです。その結果、上半身が不安定になり、全身が力んだ状態になり飲み込みが悪くなっていたのです。理学療法士と福祉用具専門相談員が、お尻が安定するように車いす用のクッションを入れ、フットレストの位置を調整して足が着くようにしました。すると車いす上で安定した姿勢が保てるようになり、安定して食べられるようになったのです。

 さて、食べるためには環境調整も重要だということはお分かりいただけたと思います。ここで大きな課題があります。僕たちは「食べる機能を評価してください」と依頼されることがあります。評価法にはいくつかありますが、どんなテストをしても、環境が整っていなければ、機能の評価は下がってしまいます。多くの評価現場で環境が軽視されている現実があります。ここはきちんと考えておかなければいけないポイントだと思います。(五島朋幸 歯科医)

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五島朋幸(ごとう・ともゆき)

歯科医師、ふれあい歯科ごとう代表(東京都新宿区)。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。新宿食支援研究会代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」、「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」パーソナリティーを務める。 著書は、「訪問歯科ドクターごとう1 歯医者が家にやって来る!?」(大隅書店)、「口腔ケア○と×」(中央法規出版)、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」(大隅書店)など

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