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リングドクター・富家孝の「死を想え」

医療・健康・介護のコラム

「理想の最期」を体現した樹木希林さん 30代で語った死生観とは

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「死を感じられる現実を生きる」

 一般的にがん宣告を受けた人は取り乱し、しばらくは人を寄せ付けずに一人で落ち込むことが多いものです。そうして、2、3週間してから、ようやく気持ちが落ち着き、先のことをあれこれと考えるようになります。

 この場合、先というのは、どのように死んでいくか、それはどのように生きていくかということと裏腹ですが、人によって違います。

 樹木希林さんは、がんになったことで人生観が変わったと振り返った上で、こんな言葉を残しています。

 「死を感じられる現実を生きられるというのは、ありがたいものですね。いつ死んでも悔いがないように生きたい。そう思っています」

 よく医者が言うのは、がん患者さんを無理に慰めたり、元気づけようとしたりしてはいけないとうことです。特別扱いせず、その人の人生に寄り添ってあげることで、患者さんは生きる勇気を取り戻せると言うのです。

 樹木希林さんの場合は、どうだったのでしょうか?

 彼女が人一倍、意志が強かったことはもちろんですが、家族の理解と支えも大きかったのではないかと思います。

ミリオンセラーとなった樹木希林さんの「一切なりゆき」(文春新書)

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必要だった内田裕也さんへの謝罪

 樹木希林さんは、こう告白しています。

 「私はがんになったときに、命が限られたと思いました。そのとき、私がやらなければならないことはなんだと考えたんです。子どもは自立して、孫もいて、孫は親たちがいるから大丈夫だと」

 たった一つ、思い残すことがないようにと内田裕也さんを呼び出し、これまでのことをびたといいます。

 「『今日までいろいろご不満もおありでしょう。大変申し訳ないことをいたしました。すみませんでした』って、芝居みたいになりましたが、それだけ謝って別れたんです」

 これで、彼女は「自由」になり、残りの人生を思い残すことなく生きたのではないでしょうか?

がんとともに生きる

 最後に医者として言えば、本人が告白していますが、樹木希林さんは抗がん剤を一切使っていません。これが逆に良かったのではないかと思います。がんと徹底的に闘うのではなく、ともに生き、そして与えられた寿命をまっとうしたからです。彼女のこんな言葉もあります。

 「逃げたってがんは追いかけてくるんだから、やっつけようとすれば、自分の体もへたばっちゃう。だから逃げることもせず、やっつけもできないからそのまんまいるっていう感じです」

 05年、62歳の時に乳がんにより右乳房の全摘手術を受けます。その後、腸や副腎、脊髄などに転移し、その部位を放射線で治療するだけで、彼女はいわば、「がんとともに」生きてきました。そして何より、この間、女優人生を代表する仕事をしているので、その精神力、何事にもポジティブな生き方は素晴らしいと言うほかありません。(医師、富家孝)

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富家 孝(ふけ・たかし)
医師、ジャーナリスト。医師の紹介などを手がける「ラ・クイリマ」代表取締役。1947年、大阪府生まれ。東京慈恵会医大卒。新日本プロレス・リングドクター、医療コンサルタントを務める。著書は「『死に方』格差社会」など65冊以上。「医者に嫌われる医者」を自認し、患者目線で医療に関する問題をわかりやすく指摘し続けている。

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2件 のコメント

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自分ならば、、、、。

宇宙人チビる

私も偶然癌が見つかり早期で大丈夫ですとか言われて運が強いと自画自賛していたら1年後、脊髄に転移してステージ4の末期癌患者。医者には定期的に検査を...

私も偶然癌が見つかり早期で大丈夫ですとか言われて運が強いと自画自賛していたら1年後、脊髄に転移してステージ4の末期癌患者。医者には定期的に検査を受けていたのに、医療ミスか?!骨の転移は難しいとか医者は言うし、今は車イス生活❕他人事では無い癌患者。未だに死期を悟り、生活を変えたいが、なにぶん身体は不自由で諦めた‼️
結果として前向きに「どうでもよい」の心境です。自分自身としてはどうしょうもない悟りと諦めた状態ですが❕情けないと人は思うかもしれないが私は私だあ❕

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考える時間や感じる時間は幸福か不幸か

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故人の、表出された表情や発言だけ切り取って考える事は少し難しい部分もありますが、一方で、こういう少し凡人離れした意見というのは大事かもしれません...

故人の、表出された表情や発言だけ切り取って考える事は少し難しい部分もありますが、一方で、こういう少し凡人離れした意見というのは大事かもしれません。
万人に導入可能ではありませんが、一定数の人間を納得させる能力はあるでしょう。
これに知名度が加われば、もう少し影響が大きくなるかもしれません。

生きていること自体が四苦八苦とも言いますし、真面目な人ほど抑うつになりやすいことからも、こういう負の状況や感情を前向きにとらえることの意味合いも大事かもしれません。
社会では色々と標準化されがちで、価値観やルールも一定の幅にされる部分は増えてはいるものの、何処にも「完全なる普通の人格や人生」などというものは存在しません。

俳優などというのは才能も努力も運も凄く尖がった部分はあるものですが、一方で、人間本来の機能としては変わりがない部分もあります。
また、全ての社会人は、本来のエゴを押さえて演じているどこか俳優でもあります。
そういう、自分と他人の違いや距離感を冷静に見つめられると、彼女の残した様々なメッセージの意味も変わって見えるのかもしれませんね。

死ぬときはひっそりでも、死後に取り上げられることをご本人がどう考えるかはわかりませんが。

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