リングドクター・富家孝の「死を想え」
医療・健康・介護のコラム
「理想の最期」を体現した樹木希林さん 30代で語った死生観とは

多くの人の記憶に生きる樹木希林さん
「私はね、女優としてではなく、一人の人間として、ひっそりと逝きたいのよ。だからもし私が表舞台から姿を消しても、決して追いかけないでね」
これは、昨年9月に亡くなられた女優・樹木希林さん(享年75)の言葉ですが、彼女の希望とは裏腹に、今も人々は彼女の人生を追い求めています。すでに亡くなって半年以上経つというのに、残した言葉や生き方をまとめた出版物などが続々発売され、ベストセラーとなっています。
彼女の言葉を集めた「一切なりゆき」(文春新書)は発売から3か月余りで100万部に達したといいます。
なぜ、人々は彼女の生き方にこれほどまでに共感するのでしょうか?
私は、彼女が私たち日本人に、「理想的な死」を、身をもって見せてくれたからだと思っています。
「己の死にざまをお見せする」
樹木希林さんというのは、本当に不思議な女優さんでした。周囲に関係なく「個」を貫き、「人生はなるようにしかならない」と一種の悟りをもって生きた人でした。これは、彼女が残した数々の言葉からわかります。
「年を取るのはちっとも苦ではないんですよ。ただあたふたせずに、淡々と生きて淡々と死んでいきたいなあと思うだけです」
どうして、彼女がこう考えるようになったのか? 私は彼女が30代からずっと「老婆」役を演じ続けてきたからではないかと思っています。自分より年長の人を演じることで、少し離れた立ち位置から自分たちを俯瞰し、客観的にみて、物語のように面白がる姿勢が身についたのでしょう。
また、長年別居状態にあった内田裕也さんとの独特の結婚生活も影響したのかもしれません。自分の意思ではどうにもならないことを運命として受ける潔さがあります。
今回、彼女が残した言葉を集めた本を読んで、改めて驚いたのは、39歳の若さで次のように語っていることでした。
「この世での役は、死に目に出会わなくなった世の人びとに、己の死にざまをお見せすることかもしれません」
若い頃から死を意識することで、独特の死生観が培われていったように思います。
「がんになって本当によかった」
樹木希林さんが「全身がん」であることを告白したのは、2013年、映画『わが母の記』で2回目の日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した時のスピーチでのことでした。それから約6年半で亡くなったわけですが、この時すでに10年ほどもがんと共に生きてきたことを明らかにしています。
「最初にがんに罹ったのは2004年です。その時は乳がんで、摘出手術を受けて良くなったのだけど、その数年後に、13か所に転移が見つかりました。
でもね、今はがんになって本当に良かったと思っているんです。自分の体と向き合うようになりましたから。それから、これはちょっと奇妙な話なのだけど……04年の年末に、タイのプーケット島への家族旅行を予定していたんです。
でも9月にがんの告知を受けて、そんなところに行く気分じゃないということで、キャンセルしたの。そうしたら年末に(インドネシア)スマトラ島沖地震が起きた。予定通り行っていたら、大津波に巻き込まれていたでしょうね。
私だけ助かって孫は流されてしまうなんて苦しい余生を想像すると、がんになって幸いと心底思ったの。それに、私はどのみち死ぬ運命なのだから、それだったらベッドの上で死ねるだけまだマシじゃないのってね」(「週刊現代」2015年6月6日号)
病と闘うのではなく、病とともに生きる。そして、人によってはマイナスととらえるような出来事も、プラスとして受け入れてしまうのが、彼女の生き方でした。さらに、こんなエピソードも披露していました。
「内田がね、ここ最近、会うたびに『体調が悪い』ってうるさいの。でも私が『それは辛いわねえ、わかるわよ。私なんか全身がんだもの』って言うと、ピタッと黙るんです。そんな効果もあるのよ」
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私も偶然癌が見つかり早期で大丈夫ですとか言われて運が強いと自画自賛していたら1年後、脊髄に転移してステージ4の末期癌患者。医者には定期的に検査を受けていたのに、医療ミスか?!骨の転移は難しいとか医者は言うし、今は車イス生活❕他人事では無い癌患者。未だに死期を悟り、生活を変えたいが、なにぶん身体は不自由で諦めた‼️
結果として前向きに「どうでもよい」の心境です。自分自身としてはどうしょうもない悟りと諦めた状態ですが❕情けないと人は思うかもしれないが私は私だあ❕
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故人の、表出された表情や発言だけ切り取って考える事は少し難しい部分もありますが、一方で、こういう少し凡人離れした意見というのは大事かもしれません。
万人に導入可能ではありませんが、一定数の人間を納得させる能力はあるでしょう。
これに知名度が加われば、もう少し影響が大きくなるかもしれません。
生きていること自体が四苦八苦とも言いますし、真面目な人ほど抑うつになりやすいことからも、こういう負の状況や感情を前向きにとらえることの意味合いも大事かもしれません。
社会では色々と標準化されがちで、価値観やルールも一定の幅にされる部分は増えてはいるものの、何処にも「完全なる普通の人格や人生」などというものは存在しません。
俳優などというのは才能も努力も運も凄く尖がった部分はあるものですが、一方で、人間本来の機能としては変わりがない部分もあります。
また、全ての社会人は、本来のエゴを押さえて演じているどこか俳優でもあります。
そういう、自分と他人の違いや距離感を冷静に見つめられると、彼女の残した様々なメッセージの意味も変わって見えるのかもしれませんね。
死ぬときはひっそりでも、死後に取り上げられることをご本人がどう考えるかはわかりませんが。
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