文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

認知症の新薬はなぜできないか…岩坪威・東大教授

インタビューズ

最有力候補の治験中止に衝撃 認知症の新薬はなぜできないか…岩坪威・東大教授に聞く(上)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
id=20190425-027-OYTEI50001,rev=2,headline=false,link=true,float=left,lineFeed=true

「アミロイド仮説」疑問視する声も

 ――これまでの新薬開発では、Aβを標的とする戦略が主流となっていました。その失敗の歴史をアデュカヌマブでも繰り返す結果となり、Aβを原因物質とする「アミロイド仮説」を疑問視する声が上がっています。

 アルツハイマー病の人の脳では、まずAβが異常に蓄積し、続いてタウというたんぱく質がたまりながら、神経細胞の死滅が進みます。Aβがたまり始めてから認知症を発症するまでには、20年ほどかかります。

 これまでにも、「Aβがたまって認知症になるのではなく、認知症になるとAβがたまるのではないか」という見方もありました。しかし、それは考えにくいことです。

 親族の中に、40~50代の若さで認知症を発症する人が次々と出る「家族性アルツハイマー病」の研究により、その患者たちは、Aβが蓄積しやすい遺伝子型を持っていることが分かりました。最初は全く異常がない脳に、遺伝子の作用でAβが蓄積し始め、やがて認知症を発症するまでの過程も明らかになってきています。Aβが「結果」ではなく「原因」であることには、ほとんど疑いの余地はありません。

タイミングが重要? 発症前に照準

 ――では、なぜAβを標的とする戦略がうまくいかないのでしょうか。

 Aβが認知症の原因であるのは間違いないとしても、Aβを抑えれば、必ず認知症の進行を防げるわけではありません。抑える力が不十分だったために失敗した可能性もありますが、研究者の間では、「抑えるタイミングが重要なのではないか」という見方が有力です。

 脳にAβがたまり始めてから、認知症を発症して症状が重くなっていくまでには、数十年かかります。その流れの中のより早い段階でAβを取り除くことができれば、認知機能の低下を抑える効果が得やすいのでは、という考え方です。

 過去に失敗した臨床試験では、症状が軽い患者に絞ってデータを分析し直してみたところ、薬の効果が出ている可能性が浮上した……という例もあります。

 投薬が遅くなるほど効果が得にくくなるのかもしれないし、あるいは、ある段階を過ぎると、薬では病気の進行を止められなくなる可能性も考えられます。

 ――確かに、神経細胞のダメージが大きくなってからでは、認知機能を維持したり、回復したりするのは、より困難だろうと推測できます。

 そのため、Aβの蓄積を抑える薬の臨床試験は、より早期の患者を対象とするようになってきています。アデュカヌマブも、第3相試験では対象を、アルツハイマー病による初期の認知症患者と、その前の段階である 軽度認知障害(MCI) の人に限定していたのですが、明確な効果を示すことができませんでした。

 アデュカヌマブに関して、さらに早い段階であれば効果が表れる可能性があるのかどうかはまだ分かりませんが、今後はMCIよりもさらに早期、つまりAβがたまり始めているが、まだ何の症状も出ていない段階をターゲットとする流れがますます強まっていくと予想されます。

<軽度認知障害(MCI)>  物忘れなどの認知機能障害が見られるが、生活に支障が出るほどではない、認知症と健常の中間の状態。その一部は、アルツハイマー病による認知症になる前の段階と考えられている。厚生労働省の推計(2012年)では、認知症が462万人なのに対してMCIは400万人。

 

いわつぼ・たけし 1960年、兵庫県生まれ。東京大学大学院医学系研究科教授。専門は神経病理学、神経内科学。アルツハイマー病の国の大規模研究「J-ADNI」研究代表者。

2 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

interviews

インタビューズ
 

インタビューズの一覧を見る

1件 のコメント

コメントを書く

生活習慣病、全身病としてのアルツハイマー

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

東京大学や製薬会社の悩みの解決を論文ではなくコメント欄でやることで、学位や奨学金がもらえるわけでもないですが、患者さんへの公益もこなせば何かいい...

東京大学や製薬会社の悩みの解決を論文ではなくコメント欄でやることで、学位や奨学金がもらえるわけでもないですが、患者さんへの公益もこなせば何かいいことありますかね。

アルツハイマー病は新しい画像診断機器のテーマでもあります。
最後のキーファクターの一つがアミロイドベータなのは間違いないとは思います。
ただ、当たり前ですが、脳細胞は脳細胞単体として存在しているわけではなく、それ以外のキーファクターを探る必要があります。
脳代謝を支える根っこは血流です。
おそらく、物質や習慣、遺伝子などの多角的解析が今後必要なのではないかと思います。
また、薬物療法だけでなく、運動療法や栄養療法との併用も大事になってくるのではないかと思います。
心臓に次ぐ足のポンプ機能は知られていますし、目や耳からの受動的刺激や声や認知などの積極的刺激が脳に与える影響も無視できないでしょう。

そして、それでも、おそらく、どこかで技術的限界には突きあたると思います。
人間という生き物自体の限界や他の疾患の診断治療との兼ね合いです。

その時に、単純な病理ではなく、全人的医療やより大きな医療社会制度の修正への立ち返りにもなるでしょう。

より良いものが求められる、新薬のハードルはどんどん高くなるので難しい部分もありますが、ぜひ頑張ってください。

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

認知症の新薬はなぜできないか…岩坪威・東大教授

最新記事