認知症の新薬はなぜできないか…岩坪威・東大教授
インタビューズ
最有力候補の治験中止に衝撃 認知症の新薬はなぜできないか…岩坪威・東大教授に聞く(上)
認知症の半数以上を占めるアルツハイマー病の根本治療薬として、最も実用化に近いとみられていたアデュカヌマブの臨床試験(治験)を中止すると、共同開発を進めていた製薬大手のバイオジェンとエーザイが3月に発表した。アルツハイマー病の新薬は、臨床試験まで進みながら、有効性が証明できないケースが続いており、期待を集めた最有力候補の”敗退”で、関係者の間に衝撃が広がっている。根本治療薬の開発がこれほど難航するのはなぜか。有望視されていた薬が次々と脱落する中で、どう戦略を立て直すべきなのか。アルツハイマー病の治療法開発に詳しい東京大の岩坪 威 教授に聞いた。(ヨミドクター 飯田祐子)
また遠のいた「第1号」
――アルツハイマー病は、脳の神経細胞が少しずつ壊れて認知機能が低下します。アリセプトなど、いま使われている薬は残った神経細胞の情報伝達力を高めて記憶などを助けるもので、神経細胞が減るのを抑えて病気を根本的に治療するものではありません。アデュカヌマブは、根本治療薬の第1号になるのではないかと注目されていました。
認知症の治療薬の開発は、これまでも苦戦が続いています。ここ数年に限っても、2016年には、製薬大手のイーライリリーがソラネズマブの承認申請を断念。昨年は、メルク(MSD)のベルベセスタット、今年に入ってからはロシュのクレネズマブの臨床試験が中止になっています。
アデュカヌマブは、少人数を対象にした臨床試験では、認知症の原因とされるアミロイドβ(Aβ)というたんぱく質を脳から取り除いて、認知機能の低下を抑える効果が見られたとして、科学誌のネイチャーに論文が掲載されました。これまでの新薬候補の多くが動物から得た抗体が元になっているのに対し、アデュカヌマブは高齢になっても認知症になっていない人が体の中に持っている抗体を利用していたことなどもあって、関係者の間では「今度こそうまくいくのでは」と、期待が高まっていました。
越えられない最後の壁
――それらの薬は、3段階ある臨床試験のうち、少数の患者を対象とする第2段階(第2相試験)までは効果があるとみられていました。ところが、最終段階(第3相試験)で多数の患者に投与した結果、効果を確認できませんでした。なぜこれほど最後の壁が厚いのでしょうか。
薬の臨床試験では、その薬を使った場合と使わなかった場合を比較して、効果を調べます。第2相試験までは参加する患者の数が少ないので、たまたま効果が大きめに表れることがあります。第3相試験は数千人の規模で行うため、そうした偶然の偏りが出にくくなり、効果が見えなくなったのかもしれません。
また、第3相試験は世界規模で行うため、その段階で初めて参加する国や施設があることも一因でしょう。臨床試験では多くの場合、第2相試験までのデータを解析し、患者の状態や薬の用法・用量などについて、大きな効果を発揮できそうな条件を調べて、その条件で第3相試験を行います。ところが、全ての施設が厳密な評価を行うのに慣れているとは限りません。その結果、データにわずかな偏りが生じてくるために、全体の数値では効果がみえにくくなる可能性もあるでしょう。
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東京大学や製薬会社の悩みの解決を論文ではなくコメント欄でやることで、学位や奨学金がもらえるわけでもないですが、患者さんへの公益もこなせば何かいいことありますかね。
アルツハイマー病は新しい画像診断機器のテーマでもあります。
最後のキーファクターの一つがアミロイドベータなのは間違いないとは思います。
ただ、当たり前ですが、脳細胞は脳細胞単体として存在しているわけではなく、それ以外のキーファクターを探る必要があります。
脳代謝を支える根っこは血流です。
おそらく、物質や習慣、遺伝子などの多角的解析が今後必要なのではないかと思います。
また、薬物療法だけでなく、運動療法や栄養療法との併用も大事になってくるのではないかと思います。
心臓に次ぐ足のポンプ機能は知られていますし、目や耳からの受動的刺激や声や認知などの積極的刺激が脳に与える影響も無視できないでしょう。
そして、それでも、おそらく、どこかで技術的限界には突きあたると思います。
人間という生き物自体の限界や他の疾患の診断治療との兼ね合いです。
その時に、単純な病理ではなく、全人的医療やより大きな医療社会制度の修正への立ち返りにもなるでしょう。
より良いものが求められる、新薬のハードルはどんどん高くなるので難しい部分もありますが、ぜひ頑張ってください。
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