心療眼科医・若倉雅登のひとりごと
医療・健康・介護のコラム
医療機関は視覚障害者の相談窓口として適しているか
視覚障害者になったらどうするか。医師が視覚障害を持ったその人のこれからの生活への指針や助言を明確に示してくれるケースは少ないでしょう。
眼科医はそういう教育をきちんと受けていませんし、それは医師の仕事ではないと思っている方々もいます。医師が、どうしても何かしなければならないと感じた時、最初に浮かぶのは、埼玉県所沢市にある国立障害者リハビリテーションセンターであろうかと思います。
しかし、関東圏以外の方にとっては、必ずしも身近とはいえません。
病気やけがなどで後天的に視覚障害が生じる「中途視覚障害」となった場合、初期の適切な助言が、その後の人生にとって非常に大切だということに異論を挟む人はいません。しかし、患者が、住んでいる自治体に相談に行っても、患者側から見れば、おざなりとも受け止められかねない対応があるのも現実です。誰でも、いつでも相談しやすい窓口とその対応システムが確立していないのです。
もちろん、社会福祉法人日本盲人会連合(日盲連)を始めとして、民間や法人の支援施設や機関はいくつもありますが、どこでどのような対応がなされているのか、障害者自身や周囲の方々が自分たちで調べるしかありません。
そうした中で、例外的ではありますが、いくつかの自治体では、視覚障害者が相談に来たら、その専門家に対応してもらうように整備しているところがあります。
そうした自治体の一つである東京・世田谷区で、視覚障害の専門家として活動されている木村仁美さん=写真=に前回からお話を伺っています。
若倉 木村さんは、何という職種なのでしょうか。
木村 名刺には「視覚障害指導」と書かれていますが、「指導」というのは適切とはいえず、見直しを検討しているところです。
若倉 そうですか。指導というと、確かに一律に何かこうしなさいということを教える、上から目線を感じますね。相談を受けて一緒に考えたり、生活訓練を実際にしたりということをなさっているわけですから、英国で普及しているECLO(アイケア・リエゾンオフィサー)とか「視覚障害アドバイザー」といった名称があるといいですね。国立障害者リハビリテーションセンター学院で専門的なことを学んでも、そうした資格は取得できないのですか。
木村 得られません。そのため、専門性が評価されにくく、視覚障害者に関わる仕事を目指す学生も減少傾向です。人材の育成は大きな課題と言えます。
若倉 潜在的な需要は非常に大きいはずですよね。やはり、視覚障害者を人材として迎えようという考えがこの国に乏しいからなのでしょうか。木村さんのところへは、どのようなルートで相談や訓練に訪れる方が多いのですか。
木村 口コミが一番多いです。区役所に身体障害者手帳の手続きにいらした方が紹介されてくることもあります。眼科の先生方からご紹介いただくケースもありますが、まだ少ないです。時々、区外からも口コミ頼りにお電話をいただくこともあります。視覚障害の方は、チラシや広報紙を見ることは困難なので、必要な人にこのシステムの存在が十分届いていないのは残念なところです。
若倉 視覚障害者と接するうえで注意していることがあれば、教えてください。
木村 一口に視覚障害といっても、必ずしも同じではなく、一律の対応はできません。症状や病気にも個人差があり、生活環境もみな違います。また、身体障害者手帳の有無によっても、心理的、社会的壁があると思います。自立できるのだという、障害者自身の気付きが大切だと思います。ですから、一人一人が、社会に出る、戻るための背中をそっと押すのが私の役割だと思っています。
眼科治療はもちろん医師の仕事ですが、それでも発生してしまう視覚障害者がこれからどう生きていけばいいのか――。木村さんのような仕事が全国の自治体に普及すれば、特段の治療もしていないのに依存的、習慣的に通院する人は減少し、その部分での医療費は劇的に縮小される可能性があると思います。
(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)
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