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Dr.三島の「眠ってトクする最新科学」

コラム

子どもの早寝早起きは健康を害する!? 「始業を遅らせ成績アップ」の海外報告も

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米国小児科学会が早寝早起きに警鐘

 実用主義の国、米国では、すでに14年に、米国小児科学会が以下のような声明を出して、子供の無理な早寝早起きに警鐘を発しています。

<1> 学業と心身の健康を維持するためには毎日8.5-9.5時間の睡眠時間が必要で、睡眠不足を昼寝や週末の寝坊で穴埋めするのは無理である。

<2> 思春期は人生で最も体内時計が夜型化する年代なので、(あくまで平均だが)23時前に寝て、朝8時前に目覚めるのは難しい。

<3> したがって睡眠時間を確保するためには現在の一般的な登校時間である朝8:30は早すぎるので、もっと登校時間を遅くするなど工夫が必要である。

 始業時間が早すぎることの弊害については、調査研究がいくつも行われています。その結果、始業時間が早いことにより学業成績の低下、メンタルヘルスの悪化、通学中の交通事故の増加など、さまざまな問題が生じていることが明らかになっています。

 さらに、中・高校生を対象にして始業時間を遅くする効果も繰り返し調べられています。米国シアトルの高校生を対象として行われた最も新しい研究では、始業時刻を7時50分から8時45分へと55分遅らせました。その結果、睡眠時間が平均34分長くなり、学業成績は平均4.5%アップしたそうです。

 シアトルの高校は、始業時刻がとても早いですね。日本の中学や高校では、登校時刻が8時半前後の学校も多いと思いますが、都市部では通学時間が長く、実際の起床時刻はかなり早い子供も少なくありません。

 そのほかの研究でも、始業時刻を遅らせ、子供を寝坊させることで授業中の眠気が減り、集中力が上がり、抑うつ感や 倦怠(けんたい) 感が改善し、課外活動へのモチベーションが高まることなどが報告されています。

寝坊しても就寝時刻は遅れない

 「子供を寝坊させると、夜型に拍車がかかるのではないか」と心配する親御さんもいますが、それは 杞憂(きゆう) のようです。実際、これまでの研究に参加した学生では、寝坊をさせても就寝時刻(入眠時刻)に目立った遅れは認められていません。睡眠不足による授業中の長い昼寝(居眠り)は、夜中の眠気をそいでしまい、寝つきが悪くなる原因になります。寝坊をさせることで居眠りが減って、夜中の健康的な眠気を誘ったのでしょう。

 これらの研究成果を基に、英国ではオックスフォード大主導で3万人の高校生が参加し、始業時間を1時間以上遅らせる検証試験を行っています。中間解析の結果、ある高校では、成績上位者の割合が34%から50%にアップしました。この社会実験の成果は、近い将来、報告される予定になっています。どのような結果になるか今から楽しみです。

 早寝早起きを推奨するのは、加齢現象で早起きが得意になった中高年のお偉方です。自分が若い頃に早起きで苦労したことを忘れたのでしょうか。それとも、「自分の世代も頑張ったのだから、今の若者にもできるはずだし、そうすべきだ」という根性論からでしょうか。そうであるとすれば、実に非科学的です。

 必要睡眠時間や朝型夜型傾向も、体質(個性)の一つです。どの年代に対しても画一的な社会スケジュールを押しつけるのではなく、個人や性別、各世代の特徴に寄り添った柔軟な対応を取るべきです。個人が最も効率よく、かつ健康的に過ごせる生活スケジュールを模索することは、現代日本が悩んでいる生産性の低下や睡眠に関わる健康問題を解決する糸口になるかもしれません。(三島和夫 精神科医)

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三島和夫(みしま・かずお)

秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授

 1987年、秋田大学医学部卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事。著書に『不眠症治療のパラダイムシフト』(編著、医薬ジャーナル社)、『やってはいけない眠り方』(青春新書プレイブックス)、『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(共著、日経BP社)などがある。

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