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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

コラム

「連載を終えて」松永正訓さん(下)障害がつらいか、つらくないか、決めるのも人の自由

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染色体異常の重い障害があっても頑張れる

――歯止めが利かなくなる?

 生命倫理を語る言葉に、「すべりやすい坂」というものがあります。倫理が一つ緩まるなら、次も緩まってしまう。坂をすべり落ちるように変わってしまう、というのが怖い。

――松永さんが障害のある子や胎児の医療にかかわって30年。この平成の30年間で、医療はどう変わりましたか。

 私が医学部を卒業したのが昭和62年(1987年)。その頃、染色体異常の13トリソミーや18トリソミーの赤ちゃんは、見捨てられるのが現実でした。「無駄な延命」であり、助けることが残酷だ、と考えられていたのです。そういった考え方の医師は、今もいます。それが変わり始めたのが2000年頃です。学会で18トリソミーの子に手術をしたケースなどが報告されるようになりました。「13トリソミーや18トリソミーでも頑張れるんだ」という方向へ変わってきたのです。

――ご自身の考え方も変わりましたか。

   若い頃の僕は、この問題をどう考えていいか、わかりませんでした。今思えば、上司の医師が持っていた古い考えに支配されていたのだと思います。大きく変わったのは5年ほど前、13トリソミーの子を育てる家族に出会ってからです。実際に、家庭に入って、その生活に触れました。親御さんは、少しもつらそうに見えませんでした。13トリソミーの子がいる生活を、楽しんでいるようにも見えました。障害があっても、つらいのか、つらくないのか、それを決めるのは人の自由、生き方の選択だと気付きました。

これで終わりじゃない もっと深い議論を

――改めて、「いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち」の連載を続けた意義について、今思うことを教えてください。

 障害がある子どもを社会がどう受け止めるか。それは 他人(ひと) ごとではなく、誰もが関係していることです。僕は、障害というのは「劣っていること」「何かができないこと」を言うのではなく、社会にあるバリアを指すのだと考えています。その意味で、障害とは「健常者問題」です。われわれが常に考えていなければいけないことなのです。

 そのためには知ることが大事。次に、理解することです。そのための素材として、連載が役立ったなら、意義があったのだと思います。

―― 第39回 で触れられたドイツの第6代連邦大統領・ワイツゼッカーの言葉が、すべてを語っている気がします。

 人間であることに基準などない――。

 日本では3年前、相模原市の知的障害者福祉施設で、元職員により、多くの入所者が殺傷される事件が起きました。あのとき、首相をはじめ、日本の政治家に、「命の重さ」について明確なメッセージを発してもらいたかった。それだけの事態だったと思います。

 この連載は終わりますが、ここを入り口にして、日本人が「障害」にどう向き合っていくのか、深い議論につなげていくことが大事だと思っています。

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inochihakagayaku200

いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2018年9月、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)を出版。

ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

名畑文巨(なばた・ふみお)

大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは http://www.fumionabata.com/index.html

名畑文巨ロンドン展報告

ギャラリー【名畑文巨のまなざし】

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1件 のコメント

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医療を取り巻く認識と政治の問題

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

ブラックジャックによろしく、を最近読み返して、この15-20年での自身と社会の変化を考えました。 直接生産性のないものに対する、世間や一般の考え...

ブラックジャックによろしく、を最近読み返して、この15-20年での自身と社会の変化を考えました。
直接生産性のないものに対する、世間や一般の考え方の問題(偏見だけはなく)、感じ方の問題、そして、それに対する政治やマスコミの問題、その中の個人と組織の意見対立。

少なくとも、こういう連載が続いたこと自体が変化なのかもしれません。

件の反論コメントの回を拝見しました。
よくここまで、感情をむき出しにできるな、と思うような意見もあります。
匿名って強いですね。

僕も学生時代や研修医時代のわずかな経験のほか、せいぜい代診や健診程度でしか関与してませんが、こういうきっかけで知の問答をさせてもらっているとは思います。

差別は究極の所、気まぐれと好き嫌いの産物で、そこに利害対立がのっかったものです。
他人の考えや感じ方を変えることは難しく、反対意見を倒すのではなく、そのスカラーをも呑み込む忍耐やアイデアが必要だと思います。

「嫌い」という言葉は文字の上では憎しみですが「嫌いという言葉に愛を込めて」に書き換えればラブコメに変わります。

世の中は、カネとモノとサービス(仕事)の不等価交換の繰り返しで回っているので、その構造を考えてどういう枠組みをすれば動くか考えていく必要があります。

基本的に規模が大きくなるほどにサービスの質は向上し廉価になる経済の論理も、医療全体の一分野である、難病医療・介護に変化をもたらすわけで、そういう訴え方も大事かもしれません。
目先の物心の利害対立だけでなく、一歩引けば共通の利益も見えることもあるでしょう。

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