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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち 松永正訓

医療・健康・介護のコラム

「連載を終えて」松永正訓さん(上)「障害児を生かすのはコスト」の声に対する僕の答え

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 ヨミドクターで2017年10月に始まり、大きな反響を呼んだ連載コラム「いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち」が、4月4日に最終回を迎えました。重い障害とともに生まれてくる赤ちゃんを巡る医療の実態や、家族の葛藤を描き、小さく弱い命に社会がどう向き合うべきかを問い続けた筆者の小児外科医・松永正訓さん。長い連載を終えた今の思いをうかがいました。(聞き手・梅崎正直、撮影・小倉和徳)

「生命倫理」という言葉を使わずに伝えたい

「連載を終えて」松永正訓さん(上)「障害児を生かすのはコスト」との声に、どう答えるか

―― 約1年半にわたる連載、おつかれさまでした。全40回に及んだ執筆を終えて、今の率直なお気持ちは?

 よく走り抜けられたな、と思います。隔週の連載でしたが、僕は2週おきに題材を考えるというのが苦手で、始まる前に全部の目次を作ってしまうんです。もちろん、途中で見直したりしながら、40回まで書き通すことができて、今あるのは 安堵(あんど) 感ですね。

―― 重度の障害がある子どもや胎児、その家族の姿を描くという着想は、いつ頃から温めていたのですか。

 赤ちゃんの生命の重み、生命をめぐる倫理についてちゃんと考えたいという気持ちは、医師になった30年以上前からありました。ただ、5年ほど前に「運命の子」という本を執筆する際、染色体異常の一つ「13トリソミー」の子と家族に接してからは、特に真剣に考えてきました。関連する専門書などもたくさん読んだのですが、いい本はあるのだけれど、専門家が専門家に向けて書いたもので、一般の人には読みづらい。大事なことを、どうしたら多くの人に伝えられるのか、と考えたとき、医師である自分自身が体験したこと、悩んだことを書くことが、生命倫理について、生命倫理という言葉を使わずに伝えることになるのではないか――と思い至ったのです。

「パンドラの箱」を開けたのか…

反響が大きかった第3回「口唇口蓋裂を受け入れられなかった家族」

反響が大きかった第3回「口唇口蓋裂を受け入れられなかった家族」

―― 始まってみると、非常に大きな反響がありました。特に17年11月2日に公開された第3回「口唇口蓋裂を受け入れられなかった家族」は、19年3月までに940万超のページビューを記録しています。連載トータルでは2300万ページビューを超え、ヤフーなどへの配信では、さらに数倍のページビューを集めました。こうした反応は、予測されましたか。

 いえ、まったくです。第1回の腹壁破裂の赤ちゃん、第3回の口唇口蓋裂の赤ちゃんの話は、それまでも講演会などで披露してきたのですが、特に反響を集めたことはありませんでした。それを文章にしたら、なぜこんなに……と意外でした。

 第3回には、口唇口蓋裂と先天性食道閉鎖症がある赤ちゃんが登場します。閉じている食道は、手術しないとミルクが飲めません。一方、口唇口蓋裂は上唇と上あごが裂けているのですが、こちらは手術できれいに治すことができ、決して重い障害とはいえません。それなのに、両親は赤ちゃんの顔が受け入れられず、食道の手術を拒否したのです。

 この話に、読者から様々な反応がありました。多かったのは、「親が手術を拒否したのは虐待ではないか?」という意見。しかし、僕が驚いたのは、重い障害のある子どもの命を救い、育てることに対し、否定的な考えを持つ人も多かったことです。「生まれてこないほうがいい」「育てる必要はない」といった声でした。

 人々の心の中にあった障害への意識。それを、このコラムが一気にあぶり出したわけで、「パンドラの箱」を開けることになったのかな、とも思います。

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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2018年9月、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)を出版。

ブログは 歴史は必ず進歩する!

名畑文巨(なばた・ふみお)

大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは 写真家名畑文巨の子ども写真の世界

名畑文巨ロンドン展報告

ギャラリー【名畑文巨のまなざし】

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2件 のコメント

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障害者として生き母として生き

すみれ

私は1才の頃、ポリオにかかり下肢運動障害障害手帳3級です。現在はポストポリオにもなり体の機能は年々衰えつつ有ります。世の中には、ポリオに罹患した...

私は1才の頃、ポリオにかかり下肢運動障害障害手帳3級です。現在はポストポリオにもなり体の機能は年々衰えつつ有ります。世の中には、ポリオに罹患した人に近づくとポリオがうつると思っている人もいます(笑)
障害がある子供達に対する人々の考えの愚かさと偏見にはうんざりします。私の人生で自讚出来る事は、4人の子を産み育て上げた事です。たまたま障害のある子供は生まれなかったけれど、親の気持ちを思うと子供の障害の方が自身の障害より辛いと思います。でも体に障害があっても魂に障害は無いとある方が言っておられましたその通りだと思います人間の世界は動物の世界とは違ってます。世の中の方が医学的知識と愛を持って新しい命を受け入れて下さる、そんな世界が来る事を祈ってやみません。

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福祉へのアプローチ

はなこ

ドイツに20年住んでいます。 「日本の福祉は、行政に対し、自分からアプローチしないと与えられないという面があります」とのことですが、こちらも同じ...

ドイツに20年住んでいます。
「日本の福祉は、行政に対し、自分からアプローチしないと与えられないという面があります」とのことですが、こちらも同じです。でも、国民として当然の権利です。
人間の社会はこの意味では自然界ではなく、どの人も安心して暮らせるように発達してきた「社会」なのではないでしょうか。体を壊した人、失業した人、事故にあった人…。税金の当然の使い道です。
「障害のある子どもの命が守られない社会は、みんなが不安な社会なのではないでしょうか」に同感します。

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