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食べること 生きること~歯医者と地域と食支援

コラム

肺炎で入院、入れ歯を外したままにすると……

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 先日、ケアマネジャーから訪問歯科診療の依頼がありました。患者さんは102歳の女性。上下ともに総入れ歯でしたが、ご自宅で家族と同じ食事をとり、元気に過ごしていたと言います。
 ある日、高熱が出て入院すると誤嚥ごえん性肺炎と診断されました。入院をした日から上下の入れ歯を外されたそうです。その後、熱が下がると少しずつ口から食べるようになったのですが、相変わらず入れ歯は外されたままで、軟らかくドロドロしたものを食べていました。
 入院して2週間ほどで、誤嚥性肺炎が再発して退院は延期。結局約2カ月で退院しました。自宅に戻った時は血管から栄養を入れるチューブが付けられ、口からは水を数滴飲む程度。ご家族は、もう一度入れ歯を入れたら口から食べられるのではないかと考えてケアマネジャーに相談したそうです。

口から食べないと、入れ歯が合わなくなる

 僕が初診で訪問をした時、その方はげっそりと痩せていて意識もしっかりしていませんでした。何度か呼びかけると、小さい声で反応したりうなずいたりする程度。もともと使っていた入れ歯を入れようとしても、口がそこまで開かず入りません。何度か大きな修理をして入れ歯は入りましたが、その方は翌月に亡くなってしまいました。

病院ではどうして入れ歯を外すのか

 僕が訪問診療を始めたのは22年前。見学で医師の訪問診療に同行させてもらった時には本当に驚きました。当時の高齢者は現在の高齢者よりも歯の数が少なく、入れ歯の使用率は高かったはずなのですが、誰一人として入れ歯を使用していませんでした。入院中に入れ歯を外され(外すよう指示され)、その後合わなくなってしまったからです。当時、まだまだ経験の浅い歯科医師でしたが、「どうして口から普通に食べられるように入れ歯を作り直さないのか」と本当に憤りを感じました。それから四半世紀たつと言うのに、今も口から食べることが軽視されていると思わざるを得ません。
 もちろん歯科の立場から見て、入れ歯を外しておいた方が良いケースはあるのですが、入院時に外されるのはまた別の理由のようです。今まで病棟で聞いたのは、「危ないから」「管理が難しいから」「硬いものを食べてないから」といった理由です。特に危ないからと言われることが多いようです。部分入れ歯の中には2、3本の小さな入れ歯があります。このような入れ歯は何かの拍子に外れて、飲み込んでのどに詰まるようなことがあると危険ですから外しておいた方がいいでしょう。しかし、総入れ歯などを外しておいた場合、マイナスの影響も小さくありません。

入れ歯は噛むためだけの道具ではない

 入れ歯は単にむための道具ではなく、お口の環境を保持する働きもあります。総入れ歯などを一定期間外しておくと唇は硬く小さくなり、噛む力も弱くなります。以前入れていた入れ歯は入らなくなってしまいます。さらに顎が無意識に動くようになったり、逆に口を開けたまま閉じなくなって乾燥が進んだりするのです。高齢になってからそのような状態になると、元に戻すのは極めて難しくなります。新しい入れ歯を作るのは困難です。
 102歳の患者さん。もし入院中もそれまで通り入れ歯を使っていたら……と考えてしまいます。(五島朋幸 歯科医)

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五島朋幸(ごとう・ともゆき)
歯科医師、ふれあい歯科ごとう代表(東京都新宿区)。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。新宿食支援研究会代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」、「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」パーソナリティーを務める。 著書は、「訪問歯科ドクターごとう1 歯医者が家にやって来る!?」(大隅書店)、「口腔ケア○と×」(中央法規出版)、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」(大隅書店)など

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