心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」
医療・健康・介護のコラム
「若くて美人だと思って…」マンション住民から誹謗中傷 胃痛を訴える32歳主婦…元凶は意外な人物だった?
弁護士に相談して内容証明を送付
L美さんは、思い余って弁護士に相談した。このような状況が続くことに耐えられなくなったのだ。
弁護士は上の階の住人宛てに、「内容証明」を書いてくれた。それが届いた後、上の階からの音はピタッとやんだ。
「ようやく胃の痛みもおさまってきました」
というL美さんの声に、こちらもホッとしていたのだが……。
今度は、L美さんに対する個人攻撃が始まった。
「あの方、組合長さんに色目を使うんですって。離婚しては、ほかの男性に乗り換えるって本当?」
といううわさを聞いた時は、本当にびっくりした。確かに、彼女は再婚しているが、それを話したことはない。組合長は、某女子大の教授だということだが、あいさつに来た時の態度があまりにもなれなれしかったので、けんもほろろに追い返したことを思い出した。
狭いマンションの中で、毎日のようにうわさされ、L美さんの不眠と抑うつ症状は急激に悪化した。
組合長が怪しいと思うのだが、証拠などまったくない。せっかく買ったマンションを出るしかないと、彼女も覚悟を決めるしかなかった。
人格者のように思われた組合長が
その後しばらく、L美さんの受診は途絶えた。引っ越しで改善したのだろうと、こちらも思っていたが、3か月ぶりに外来を訪れた彼女に、近況を尋ねてみた。
「実はまだ、引っ越していないんです」との答え。
きっかけは、組合長の5歳の娘が、近所の友だちの家に逃げ込んだことだった。組合長は大学教授で、人格者のように思われていたが、家庭内では暴君で、子どもを虐待していた。近所からの通報で、警察が動き、取り調べが始まった。実は以前にも、学内のセクハラで取り調べを受けたことがあったという事実も判明した。マンション内の彼の評価はあっという間に低下し、組合長一家は、逃げるようにして引っ越していった。
それをきっかけに、L美さんへの 誹謗 中傷も消えた。彼女の症状も消え、ようやく落ち着いた毎日が戻ってきた。
「でも、やはりこのマンションは引き払おうと思います。良い思い出がないし、まわりの方たちを信頼できませんから」
とL美さん。住み始めてからそんなに日もたたないのに……と、残念そうだった。
「気に入った家を見つけるまで3度は住み替えろと言った人もいました。あきらめずに探せば、きっとあなたにふさわしい『すみか』が見つかると思いますよ」
と話すと、L美さんの顔にようやくほほえみが浮かんだ。安心して暮らせる「居場所」を見つけるのは本当に難しいという意味の言葉に、彼女は深くうなずいてくれたのだった。(梅谷薫 心療内科医)
*本文中の事例は、プライバシーに配慮して改変しています。
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法的な証拠能力と医療と精神病名の関係性
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「お前、なんでそんなこと知っているんだよ」と言われそうですが、証拠能力や責任などを伴って、世の中は揉め事が少なからずあります。
スターリンだったか、自白は証拠の王様と言いましたが、証言はもっと簡単に作れますからね。
(悪用する側ではなく立ち向かう側に知ってほしい事です。古典や歴史で出てくる誹謗中傷の怖さに。)
地域の政治や人間関係は平気で絶対的真実を捻じ曲げてしまうのはよくある話です。
そして、精神病の保険病名をめぐる物証や発言の証拠能力の問題が、さらに話を複雑にします。
誰かが最初についた嘘を守るためのさらなる嘘。
こういう時に、たいてい新参者や余所者が被害者になりがちです。(人口過疎を防ぎたい市町村は、価値観や生活パターンの違いに伴うそういう小競り合いを予測して、動く必要もあります。)
身近な人もひどく複雑なことを考えたり、守る努力を放棄して、敵に回ってしまう可能性もあります。
一方で、人間とはそういうものだという割り切りも必要だと思います。
どんな時でも科学や正義を貫けるものではなく、周囲に流されるのが普通です。
その中で、政治や人間関係を知らない医師はほぼ無力ですが、中立の立場で話を真摯に受け止めた信頼が、最後の引っ越し予定報告の受診に繋がったのでしょう。
嘘に踊らされた住民もバツが悪いから、どういう政治が働くかわからないので、引っ越すのが無難ですし、場合によっては家族の別居や離婚も視野に入るでしょう。
何が普通で、何が正義か、価値観は難しいものですが、一方で、人間関係はもっと難しいものです。
捨て身でやり返す状況でもなければ、諦めと割り切りが肝心です。
世の中人間の相性もありますが、嘘を吐いた側も、程度問題や、捨て身に追い込むとその地域からまともな人が減っていくリスクを考える必要があるでしょう。
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