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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

コラム

忘れられがちな日本脳炎 リスク高い北海道 増える外国人どう守る?

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日本で認知されたウイルス感染症 有効な治療法なし

 前回は、日本にはないけど要注意、かかったら死んでしまう狂犬病の話をしました。

 今回は、日本にある病気。でも、その存在を全く意識していない病気について説明します。

 それが、日本脳炎。何千年も前からアジアを中心に存在していたウイルス感染症ですが、その存在が認知されたのは1871年の日本でした。

 参考)https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/15/1/08-0311_article

 ところで、第一次世界大戦中の1916~17年、オーストリアのウィーンで脳炎が流行しました。これを 嗜眠性(しみんせい) 脳炎(命名者の名をとってフォン・エコノモ脳炎ともいう)といいましたが、同時期に日本脳炎が認識されたため、前者をA型脳炎、後者をB型脳炎と呼んだりしました。今でも英語圏では日本脳炎のことをJapanese B encephalitis(JBE)と呼ぶことがありますが、このBはそういうことです、明日からの診療に少しも役に立たないうんちくでした(Dickman MS. von Economo encephalitis. Arch Neurol. 2001 Oct;58(10):1696-8.)。

死亡率20~40% ワクチン効果で認識しづらい恐ろしさ

 死亡率は20~40%と言われる恐ろしい日本脳炎には、現在も有効な治療方法は存在しません。では、なぜ我々が日本脳炎に恐れおののかずに済むのかというと、それは子供のときにワクチンを打っているからです。

 参考)「日本脳炎とは

 日本から日本脳炎ウイルスが消えてなくなったわけではないのです。ワクチンで守られているから、認識しにくいだけ。ワクチンは医学界最大最強の道具のひとつなのですが、効果が絶大なために、その功績が認識しにくくなるという皮肉がここにあります。

 日本脳炎ウイルスは、豚の体内に存在します。その豚から吸血したコガタアカイエカが人間を刺すと、発症のリスクがあります。神戸でも、ときどき日本脳炎の患者が見つかります。何らかの理由で予防接種を受けていなかったのか、あるいは免疫力が低下したためか。いずれにしても、日本国内で日本脳炎のリスクがなくなったわけではない、という事実はきちんと認識しておくべきです。

ワクチンの定期接種化が遅れた北海道 温暖化で蚊の生息圏拡大中

 特に近年、日本脳炎に注目する理由が二つあります。北海道と海外です。北海道では、日本脳炎の発生がないという理由で日本脳炎ワクチンが定期予防接種の対象外となっていました。でも、おかしいですよね。北海道の人が本州以南に引っ越さないという理由はどこにもない。本州以南に移動、引っ越ししている方も多いでしょう。それに、地球温暖化によって蚊の生息圏は拡大しています。北海道だって日本脳炎の流行地になるときが来るかもしれません。

 よって3年前から、ようやく北海道でも日本脳炎ワクチンは定期接種に組み込まれました。しかし、ここが厚生労働省のイケてへんところなのですが、日本の予防接種スケジュールは、年齢によって厳密に区分けされています。日本脳炎ワクチンは13歳までに合計4回接種しますが、その年齢を過ぎるとすべて任意接種になってしまいます。結局、一部の例外はあるものの、北海道の人たちは日本脳炎のリスクをヘッジできていないのです。

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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