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うんこで救える命がある

コラム

僕が「うんこ」を背負う理由

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僕が「うんこ」を背負う理由

 連載企画を担当します、医師の石井洋介です。

 消化器外科医としてキャリアをスタートさせましたが、今は横浜市の西側地域を中心に在宅医療を展開する山手台クリニックで院長をしながら、秋葉原にある夜間診療のみに特化したクリニックの共同運営も行っています。

 今、力を入れているのは「日本うんこ学会」という団体の活動です。設立に携わり、代表を務めています。名前は少し怪しげですが、活動の趣旨はとても真面目です。大腸がんを始めとする消化器の病気の早期発見や予防啓発を軸に、

1.正しいうんこの知識を普及させ、国民の大腸健康度の向上を目指す
2.(学校で子供たちが)「先生、うんこに行ってきます!」が自然と言える社会を目指す

という二つの理念を掲げています。

 目標を実現させる一つのツールとして、「うんコレ」というスマホゲームを目下開発中です。排便の報告をすると新しいキャラクターが手に入り、ゲームを楽しみながら大腸の病気についての知識が身につき、病気の疑いがある場合はアドバイスをしてくれる、というゲームです。ボランティアで参加してくれるエンジニアやイラストレーターの仲間たちと制作しています。なぜ医師がゲームを作るのかという話は、次回以降に紹介したいと思います。

 ここまでの話では、うんこの好きな変な医師がゲームを作っているという印象が強いと思いますが、僕が「うんこ」を背負うには理由があります。10代からうんこに翻弄され、生きづらい毎日を送ってきたという患者の体験を持っているのです。

大腸の病気によって不登校に

 僕は高校1年生の時に潰瘍性大腸炎という難病になりました。大腸に原因不明の炎症が起こり、大腸の粘膜に傷が付いてしまう病気です。最近は診断を受ける患者さんの数も増えているので、近くに同じ病気で悩まされている方もいるかもしれません。

 潰瘍性大腸炎は回復と悪化を繰り返します。状態がいい時は普通に生活できるのですが、悪化するとどこにいてもおなかが痛くなり、トイレに駆け込むことになります。そのような状態で高校も欠席が続くと、自分の居場所がないと感じるようになり、不登校になりました。「もう生きる価値もないかな」と落ち込む日々が続きました。

 なんとか高校は卒業しましたが、19歳の時に病状が急変、大量の出血をしました。地域の総合病院で緊急手術により大腸を全て摘出し、人工肛門をつけました。人工肛門とは、便を出すためにおなかに人工的に開けた肛門のことです。おなかの表面に貼るパックの中に便がたまっていき、たまりきったところでトイレに流します。

 主治医から「1度つけた人工肛門は2度と閉じることはできない」と伝えられてからは、その後の日常生活がどの程度不便になるか分からず、不安になりました。

「情報の違いで人生が変わる可能性がある」

 そんな僕を救ってくれたのがインターネットでした。検索した情報掲示板で、人工肛門を閉鎖する特殊な手術があることをたまたま知りました。回腸嚢かいちょうのう肛門管吻合ふんごう術と呼ばれる手術で、横浜市の病院で受け、無事人工肛門を閉鎖することができました。「持っている情報の違いで、人生が変わる可能性がある」と感じる機会でした。

 このとき人工肛門を閉じる手術をしてくれた外科医は、僕にとって恩人であり、ヒーローでした。僕も患者を救う外科医になりたいと考えて猛勉強し、その後憧れの外科医として出発しました。恩人である医師の下で働き始め、「ここで頑張れば誰でも助けられる」という気持ちで外科手術に 邁進(まいしん) しました。

手術では治せない悔しさを経験

 しかし、中には外科手術だけでは解決しない問題にもたくさん直面しました。病気が進行し、手術の腕をどれだけ磨いても治せないという悔しい思いもしました。手術は成功したにもかかわらず術後の合併症で苦しむ患者さんや、手術は成功したけれど、帰宅までの調整に時間がかかり、足腰が弱って介護施設に行くことになってしまった患者さん等、必ずしもいい結果に終わらなかった方とも多く出会いました。

 手術だけでは解決しない問題にたくさん直面したことが、その後、うんこを使って大腸がんの啓発を行う活動、厚生労働省への出向、在宅医療への挑戦など様々なキャリアチェンジにつながっていきます。いずれも困った患者さんの問題を解決したいという一心でした。

 一般的な外科医とは異なるキャリアを歩み、医師の仲間から「流浪医」と呼ばれたりもしています。そんな「うんこ」に翻弄され、流れるように生きてきた医師の視点から、今後、話を展開していきたいと思います。こんな話が聞いてみたいなどのリクエストもお待ちしています。

 それでは、本日から連載開始です。(石井洋介 日本うんこ学会会長)

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ishiyousuke_prof

石井洋介(いしい・ようすけ)

 医師、日本うんこ学会会長

 2010年、高知大学卒業。横浜市立市民病院炎症性腸疾患科、厚生労働省医系技官などを歴任。大腸がんなどの知識の普及を目的としたスマホゲーム「うんコレ」を開発。13年には「日本うんこ学会」を設立し、会長に就任。現在は、在宅医療を展開する山手台クリニック院長、秋葉原内科saveクリニック共同代表、ハイズ株式会社SHIP運営代表、一般社団法人高知医療再生機構特任医師。著書に「19歳で人工肛門、偏差値30の僕が医師になって考えたこと」(PHP研究所)など。

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