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明るい性の診療室

コラム

性反応の悩みがあればセラピーを

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大川玲子(婦人科医)

性反応の悩みがあればセラピーを

 「あなたがどんな性生活を送っているか言ってみたまえ。あなたがどんな人物か言ってみせよう」

 この一節は、「セクシュアリティ」(ジェフリー・ウィークス著、上野千鶴子監訳、河出書房新社)で、性のとらえ方に影響を与えたフランスの哲学者を解説する文章のなかで紹介されています。

 人にはそれぞれの性生活がありますが、性についての悩みや疑問は多岐にわたり、みな手探りであったり膨大な情報に振り回されたりしています。このシリーズでは、性行為(セックス)における体の反応や、性の反応がうまく起こらない「性機能障害」、その対処法など、性の健康について伝えていきます。

 執筆者は、主に女性の性機能障害を治療している婦人科医と、男性を中心に診ている泌尿器科医です。セックスは通常2人の営みですので、治療の対象は基本的にカップルとなります。

 人間の性反応は、性欲を抱き、性的興奮を覚え、オルガズムへと進みます。この体の反応の流れは男女のどちらも同じであることを、1960年代にマスターズとジョンソンという2人の学者が発表しました。

 性反応がうまく起こらない性機能障害に悩む人は、少なくありません。性的な興奮が起きない、興奮は覚えるのにオルガズムが起きないなどです。男性では、性的興奮の勃起が起きない、オルガズムの段階の射精に至らないということになります。

 女性器( (ちつ) )に男性器(ペニス)を受け入れることができないという女性もいます。この疾患を、性科学の分野でよく使われる米国精神医学会の分類では「骨盤・性器の 疼痛(とうつう) と挿入の障害」と言いますが、かつてはワギニスムスまたは腟 痙攣(けいれん) と言いました。この疾患については次回以降に詳しく取り上げる予定です。

血管の不調も性機能の障害の一因に

 治療の柱の一つは男女ともに、不安や緊張、恐怖によって抑制された性反応を取り戻す心理的なものになります。「セックス・セラピー」と言います。特に、性行為でのオルガズムの有無よりも全体的な満足感を重視する傾向がある女性では、性機能障害に対してはセックス・セラピーが主な治療法です。

 体の反応に影響を及ぼすのは、筋肉や血管、神経の働きであり、どこかの部位に問題が起きれば性反応も劣化します。性機能障害の多くが身体の疾患が関係していると分かってきました。例えば、男性では勃起をする、女性では () れるという反応は血流の増加によって起きますが、動脈硬化によってこれらの反応は妨げられます。

 勃起、射精のような男性の性反応は見た目で分かりやすいこともあり、治療法が開発されました。1998年に勃起不全(ED)を改善する薬バイアグラが米国で認可されました。もっとも、ED治療薬だけでは解決しない男性もおり、心理的療法は大切です。女性の性機能改善薬の開発も待たれています。

性の喜びも大切に

 性反応とは、簡単に言えば「気持ちよくなる」ことです。しかし、男性からの求めに応じるという役割ばかりを負ってきた女性は、性機能障害に悩んでいても「気持ちよくならないだけではセラピーを受けるものではない」ととらえているようです。治療を担う専門家が少なく、治療が可能という情報が届いていないためかもしれません。

 婦人科の筆者が受け持つ性外来に来られる女性の多くは、性交できず妊娠できないことが受診の理由となっています。ただ元々、人間の性交は妊娠と同義ではなく、性行為を楽しむための避妊法は近代医学の成果でもあります。現在、体外受精などの生殖医療が発達し、性交がなくても妊娠に至るケースも増えてきました。

 多くの女性にとって、性の喜びは性交より愛情やスキンシップによるところが大きい点も忘れてはいけません。性機能障害の治療を、妊娠という目的からのみ見る考え方が広がっている現状は、現代の文化、セックスレスとともに、性の診療が対応していくべき大きなテーマです。

(本コラムは婦人科医の大川玲子医師と、泌尿器科医の今井伸医師が交互に執筆します)

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明るい性の診療室
大川玲子先生

大川玲子(おおかわ・れいこ)
千葉きぼーるクリニック婦人科医師
 1972年、千葉大学医学部卒業。同大助手、国立病院機構千葉医療センター(旧国立千葉病院)産婦人科医長などを経て、2013年から現職。日本性科学会理事長、NPO法人千葉性暴力被害支援センターちさと理事長。

今井伸(いまい・しん)
 聖隷浜松病院リプロダクションセンター長、総合性治療科部長
 1997年、島根医科大学(現・島根大学)卒業。島根大学助手、聖隷浜松病院泌尿器科主任医長などを経て、2019年4月から現職。日本性科学会幹事、日本性機能学会評議員、日本泌尿器科学会指導医、島根大学臨床教授。

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