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コラム

『入門!自宅で大往生――あなたもなれる「家逝き」達人・看取り名人』 中村伸一著

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老々介護、独居でも「家逝き」できる秘訣とは

『入門!自宅で大往生――あなたもなれる「家逝き」達人・看取り名人』 中村伸一著

 金ない、人ない、施設もない。けれども、「家で逝きたい、 看取(みと) りたい」という「村人」の希望に“伴走”して四半世紀。福井県にある高齢化率38%、人口2384人の旧名田庄村(現・おおい町)にたった一人の医師として赴任し、在宅医療、介護、看取りを支援してきた著者が、自宅での大往生をかなえるために編み出した四つの「家逝き」の極意を伝授する。

 実は、人の最期は、延命か否かの単純な二元論ではないという。食べられなくなった時、息ができなくなりそうな時、心臓が止まりそうな時、どうすればいいのか。同居家族がいない場合は。かかりつけ医との付き合い方は。老々介護でも独居でも「家逝き」を可能にする 秘訣(ひけつ) とは……。自宅で大往生するための具体的な知恵と助言が示唆に富む。

 本書は、幸せな最期を実現するための実用書だが、泰然自若と死を受け入れる村のお年寄りたちの生きる姿勢も読みどころの一つ。仏壇を相手に“あの世シミュレーション”を繰り広げるばあさまがいて、葬儀の費用を自分で計算してから亡くなる人がいる。朝、目を覚ましたら「あら、生きとった。死んどるかと思ったのに」と言って、介護者を笑わせるお年寄りもいる。古くから「家逝き」に慣れたこの村の人々は、人が逝くのも暮らしの営みの一つとして超自然体で死を受け入れる。これを著者は「名田庄力」「名田庄スタイル」と名付けた。

 本書を読み進めれば、人の死というものは終わりではなく、四季の移り変わりのような命の循環であり、自然の営みだと () に落ちる。医師で作家の鎌田實氏が「この本で『死』が身近になり、簡単に乗り越えられそうになる」と評したわけは、著者や村人たちが築き上げた深い信頼が支える穏やかな看取りの光景にあるだろう。

 ちなみに、金ない、人ない、施設もない、ないないづくしの在宅介護、医療とは、もはや旧名田庄村だけの課題ではない。急激な人口減少、高齢化、財政難により、国は病院、介護施設の新設を抑制し、在宅医療、介護、看取りに大きくかじを切った。旧名田庄村という「最先進地域」が示す現実には、まもなく日本全国がのみ込まれる多死時代を乗り越えるためのヒントがあふれている。医療従事者、行政・議会関係者ともに必読だ。

 (中公新書ラクレ 860円、税別)

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