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僕、認知症です~丹野智文45歳のノート

医療・健康・介護のコラム

根本厚労大臣が、認知症の人の声に「目からウロコ」

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当事者には「普通のこと」だけど…

根本厚労相が認知症の人の声に「目からウロコ」

意見交換会の後、メディアの取材を受けました(向かって左から藤田さん、私、春原さん、柿下さん)

 実はこの言葉、私たちは普段から頻繁に耳にしています。私は自分の講演会では、閉会すると会場の出口に立って来場者を見送っているのですが、その際に「目からウロコが落ちました」という感想を述べる人が必ずいるのです。私としては、これまでの経験や、日ごろ感じていることを話しているだけなので、「普通のことを言ってるだけなんだけどなぁ」と、つい首をひねってしまうのですが。

 当事者には当たり前のことが、他の人には思いもよらないことなのかもしれません。昨夏、シカゴで開かれた国際アルツハイマー病協会の国際会議では、欧米やオーストラリアの当事者が「私たちこそが、認知症の専門家(ディメンシア・エキスパート)だ」と言い、認知症を巡る医療や社会のあり方について堂々と発言していたことは、このコラムでも紹介しました。日本でも、誰もが安心して暮らせる社会をつくるために、認知症になった私たちだからこそ気づき、提案できることがあるのではないでしょうか。

本人と家族の視点は違う

 2015年に作られた認知症の総合戦略「新オレンジプラン」でも、認知症関連の施策に当事者や家族の視点を生かすことが掲げられています。「施策の企画・立案から当事者の意見を取り入れようという考えが、国の方針にようやく盛り込まれた」とも言われているのですが、実はここには根深い問題も見えるのです。

 まず、本人と家族の意見がひとくくりにされてしまうのでは、という心配があります。実は、自治体などが、当事者の意見を聞くためにアンケートを行う場合でも、実際には家族に回答してもらっているということが少なくないのです。

 私の経験では、家族は一番近い存在だからこそ、本人の気持ちに気づかなかったり、思いこみで判断してしまったりすることがたくさんあります。例えば身の回りのことなど、本人が自分でできることや自分でやりたいと思っていることも、家族が先回りしてやってしまう場合がものすごく多いのです。家族の優しさから出た行動であっても、結果的に本人が一人ではできないことがどんどん増えていき、自信を失ってしまいます。

 そもそも認知症の人でも、理解できるように質問すれば、多くの場合はちゃんと答えが返ってきます。認知症の人の考えや気持ちを知りたいなら、まずは本人に尋ねるべきではないでしょうか。

うわべだけでない「当事者参画」に期待

 また、「当事者の参画」が、うわべだけで終わってしまっては意味がありません。有識者や専門職などと一緒に自治体の会議に参加した当事者から、「説明が難しくて、よく分からなかった」という声も聞きます。当事者をメンバーに加えたものの、全く意見を聞こうとしないこともあるようです。

 こうした問題を新しい政策大綱でどう乗り越えていくのかは、まだわかりません。ただ、これまでにも時の厚労大臣・副大臣と会う機会が何度かありましたが、2人同時というのは、今回が初めてでした。政府がそれだけ真剣に当事者の声に耳を傾けようとしている表れかもしれないと、期待が高まりました。(丹野智文 おれんじドア実行委員会代表)

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丹野智文(たんの・ともふみ)

 おれんじドア実行委員会代表

 1974年、宮城県生まれ。東北学院大学(仙台市)を卒業後、県内のトヨタ系列の自動車販売会社に就職。トップセールスマンとして活躍していた2013年、39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断を受ける。同年、「認知症の人と家族の会宮城県支部」の「若年認知症のつどい『翼』」に参加。14年には、全国の認知症の仲間とともに、国内初の当事者団体「日本認知症ワーキンググループ」(現・一般社団法人「日本認知症本人ワーキンググループ」)を設立した。15年から、認知症の人が、不安を持つ当事者の相談を受ける「おれんじドア」を仙台市内で毎月、開いている。著書に、「丹野智文 笑顔で生きる -認知症とともに-」(文芸春秋)。

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