シンガー・ソングライター 水越けいこさん
一病息災
[シンガー・ソングライター 水越けいこさん]ダウン症の息子と(4)「私らしく」は息子の幸せ
就職を決意した時、43歳になっていた。息子の保育園や通院の都合を考えると、遠くまで通勤はできない。
シングルマザーで元歌手。就職活動は難航した。現実の壁に何度もはね返され、落ち込んでいた時、やっと営業職の採用通知が届いた。霧の向こうに、ぼんやりと希望の光がともった。
その晩、あまりのうれしさで、キッチンで料理をしながら、大好きな米国の歌手リンダ・ロンシュタットのCDに合わせて歌っていた。現役時代のライブさながらに、おなかの底から声を出し、思わずノリノリのステージアクションまで飛び出した。
隣の部屋でテレビを見ていた息子が、びっくりした様子でキッチンに駆け込んできた。「息子は私が歌手だったことを知りませんでした。本気で歌っているのを見たのは、それが初めてでした」
心からうれしそうに拍手をしてくれた。その時の笑顔は、今も忘れられない。曲が終わっても、しばらく2人で見つめ合っていた。
「その時、気づいたんです。私が私らしく生きることは、息子にとっての幸せでもあるのかな、と」
2日間悩んだ末、採用を決めてくれた会社に断りの連絡を入れた。続いて、かつての音楽プロデューサーに数年ぶりの電話をかけた。
「水越けいこです。お会いしたいです」
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シンガー・ソングライター 水越けいこさん(65)
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