心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」
医療・健康・介護のコラム
帰宅したら妻と娘がいない…「やり手部長」の裏でDV、ギャンブル 43歳男性を変えた妻からの「四つの条件」
「条件」に従えないなら離婚調停
K夫さんは、結局その診断書を使わなかった。その代わり、妻の両親に会い、土下座して謝った。このまま「DV夫」と認定されたら接近禁止になる。夫としてのプライドなんかより、娘と会えなくなることの方が、彼にとっては、ずっとつらいことだったのだ。
義父母と妻は、最終的に折れてくれた。3歳の娘にとって、父親は必要だと考えたのだ。ただし、前歴があるので、厳しい「条件」がつけられた。それに従えないようなら、離婚調停が始まる。K夫さんは、やむなくその条件をのむことにした。
- 彼だけが近くのアパートに引っ越すこと。奥さんと娘さんは元のマンションに戻り、必要なときだけ、夫が立ち寄るのを許可する。
- 奥さんと会話をするときは次のことを守る。
- 身体的な暴力をふるえば、即、離婚。
- 暴力的な言葉や脅しは一切ひかえる。
- 自分の理屈で相手の発言を封じない。
- 過去のことを持ち出して相手を責めない。
- 感情に支配されそうなときは会話をやめる。
- 今後一切、ギャンブルはやらない。
- 仕事上どうしても必要な場合を除いて、早く帰宅し、奥さんの手伝いをできるよう待機する。
K夫さんにとっては、かなり過酷な条件のようだった。しかし、彼は悩みながらも、それを受け入れたのである。
妻の手料理に涙があふれ…
それから半年。K夫さんが久しぶりに外来を訪れた。
「あれから何とか『通い婚』を続けています。最初はきつかったけれど、だいぶ慣れました。一人でいると、時々ひどく寂しくなるんです。でも、娘と過ごす貴重な時間を思えば耐えられる。むしろ、妻との会話が難しいんですよね」
そう話し出したK夫さん。さらに続ける。
「時々『それは間違っている』と理論で正してやりたくなる。でも、理屈で押さえ込もうとしても、ダメだとわかりました。聞いてほしいという気持ちに、素直に耳をすます。それが大事だということに、ようやく気がついたんです。時々は怒りで我を忘れそうになることもありますが、そんな時は『休戦』して、いったん外に出ます。外の空気を吸って、気分転換するだけで、気持ちが落ち着くことがよくわかりました」
「ずいぶん頑張りましたよね。実は、ここまで続けられる男性は意外に少ないんですよ」
「そうですか。私は子煩悩なもんですから……。そうそう、先日、妻の提案でリビングの壁紙を張り替えました。これがけっこうな重労働。大きな壁紙を2人で支えながら張っていくんですが、お互いの呼吸が合わないと、結構むずかしいんです。1日がかりで張り終えてヘトヘトになり、義父母や娘と一緒に、妻の手料理を食べました。とても幸せな気持ちになって、思わず涙があふれた。『あぁ、こんな生活を本当は望んでいたんだ』と思えました……」
共同作業は、2人の仲をとりもつ作用がある。義父母が長年の夫婦生活で身につけた「生活の知恵」だとのことだった。
「『通い婚』がいつか終わるとよいですね」という私の言葉に、K夫さんは大きくうなずきながら、外来を後にした。(梅谷薫 心療内科医)
*本文中の事例は、プライバシーに配慮して改変しています。
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加害更生プログラム、日本ではまだ少ないけれど、DVという行動に出ないため、そして被害者保護のための学びのプログラムがあります。
DVによる別居は学びのチャンスです。厳しい条件と言うけれど、それほどでもないと感じました。DV夫は賢くサイコパスのように嘘をつくので、一時的に抑えられても何かのきっかけでDV行動にでるために条件の解釈をねじ曲げたり特例を作ります。
妻側は配偶者暴力センターなどと繋がり、DVの記録と証拠をつけていらっしゃるかしら。
怒りは我慢するのではなく根本から見直して絶やす。自分の価値観を見直す必要があります。DVと児童虐待にはサイクルがあり、ハネムーン期は本当に改心更生したのかと思うけれど、また蓄積期爆発期と繰り返すうちどんどん内容がひどくなり、妻は洗脳支配されて逃げることが難しくなります。研究ではDV家庭では平均7回別居と同居を繰り返すのだそうです。日本の男尊女卑な思想や教育的暴力を肯定してきた社会はDV夫をつくりやすい。もちろんDVをする女性もいますが。
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いくら常識的に考えてどうしようもない夫だったとしても、奥さんも小さい子供を抱えて経済的に見ても教育的に見ても、離婚は避けたかったという訳でしょう。一度ひどい間違いを犯したのに、これだけ頑張って持ち直せる夫はそうそうはいませんから、報われてしかるべきだと思います。またすぐに逆戻りをしておじゃんな人がほとんどなのに。
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