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陽子のシネマ・クローゼット

コラム

「悪魔つき」といわれた病気から若き女性記者を救ったのは…『彼女が目覚めるその日まで』

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(c) 2016 ON FIRE PRODUCTIONS INC.

シャーリーズ・セロンがプロデュース

 憧れのニューヨークで、仕事も恋も幸せの絶頂にいる若い女性記者が、ある日突然、原因不明の病に侵されて人格を奪われ、正気と狂気の間をさまよう――。『彼女が目覚めるその日まで』は、医師から見放されても、決してあきらめなかった家族や恋人の強い絆と愛、そして、ある医師との出会いによって、ついに生還を果たした衝撃の実話が基になっている。

 ハリウッドスターのシャーリーズ・セロンが、プロデューサーとして映画化に情熱を傾けたことでも話題になった。そのセロンが監督に抜てきしたのが、アイルランド出身の新鋭ジェラルド・バレットだ。

 バレット監督は、事前に原作者で主人公のスザンナ・キャラハンの家族やボーイフレンド、治療に携わったドクターたちとも徹底的に話し合ったという。原作に書かれていない事実も映画に盛り込むためにリサーチを重ね、真実に忠実であることを何より大切にして撮影に臨んだ。

『エクソシスト』のモデルも?

 映画の主題となった「抗NMDA受容体脳炎」は、免疫の異常で起きる神経疾患だ。症例が極めて少なく、2007年に米ペンシルベニア大のダルマウ教授の研究により特定されるまで、病名さえなかった。

 スザンナは、世界で217人目の患者であり、7か月にわたる闘病生活をつづった手記を所属するニューヨーク・ポスト紙で発表。優れたジャーナリストに贈られるシルリアン優秀賞を受賞した。その記事をベースに執筆した書籍『 Brain on Fire 』(邦訳『脳にむ魔物』KADOKAWA)が映画の原作となった。

 症状は、“悪魔つきの病”とも称されるほど壮絶だ。幻視や幻聴に苦しみ、体が硬直して奇妙な動きをするようになり、感情のコントロールができなくなる。そのため、精神障害と疑われてしまい、処方薬では改善はされず、精密検査でも原因を突き止められないまま、症状は悪化の一途をたどる。

 記憶にとどめている方も多いだろう、1973年、米国で興行収入1位を記録したホラー映画『エクソシスト』の悪魔に取りつかれた少女を。そのモデルになった実在の少年は、この病気の典型的な症例だったといわれている。

すさまじい症状…でも検査結果は「異常なし」

「悪魔つき」といわれた病気から若き女性記者を救ったのは…「彼女が目覚めるその日まで」

DVD¥3,800(税別)
発売・販売:KADOKAWA

 本作では、スザンナに表れためまいや物忘れなどの異変が、次第に激しくなっていく様子が描かれている。そして、スクープを狙う重要な取材で取り返しのつかない失敗を犯してしまう。その後も聞くに堪えない言葉で周囲の人を罵倒するなど、スザンナの様子はさらに異常さを増していき、とうとう全身を激しくけいれんさせて昏睡こんすい状態に陥ってしまう――。

 役者にとって、病気の症状は演技力の見せ所だ。病気が正しく演じられていると、社会が病気の存在を知り、闘病の苦しみを広く理解する後押しになる。主演のクロエ・グレース・モレッツが、鬼気迫る演技でその大役を果たした。

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ogawa_yoko_prof

小川陽子(おがわ・ようこ)
 東京生まれ。日本医学ジャーナリスト協会副会長。国際医療福祉大学大学院医療福祉ジャーナリズム修士課程修了。医療ジャーナリスト、医療映画エッセイストとして活動。“シニアによるヒップホップダンスへの挑戦”というテーマで話題になったドキュメンタリー映画『はじまりはヒップホップ』(2016年日本公開)のメンバー(平均年齢83歳)を日本に招き、湖山医療福祉グループ・カメリア会の特別養護老人ホームで交流イベントを行うなど、映画のイベントプロデュースも手がける。高齢者住宅新聞で、「ヘルスケア×カルチャー 変貌する医療と福祉」連載中。 

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2件 のコメント

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不可解な症状を読む複数の読み筋と画像診断

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

学会演題に出せそうな話を先に新聞投稿にしてもいいのかという気もしますが、公益ですから良いでしょう。 先日、不可解な症状の患者さんに相談されました...

学会演題に出せそうな話を先に新聞投稿にしてもいいのかという気もしますが、公益ですから良いでしょう。
先日、不可解な症状の患者さんに相談されました。

「金縛り」
スピリチュアルな傾向の強い方やそういう家族をお持ちの場合もあるため、その存在の有無を議論するのは避ける必要があります。(肯定も否定もなく、西洋医学医師が対応すべき事。)
西洋医学的に言って、「夜間の一過性の四肢麻痺と意識覚醒」と言うことであれば、四肢麻痺を考え、頭部や頸部のMRIで明らかな病変を除外する必要があります。
また、頭頸部に明らかな病変なく、その後の経過観察や軽度の投薬で改善がなければ、別の診断を考える必要があります。

一つは首から下のどこかに大きな異常(画像診断や血液検査などでわかる)があってそれが頭頸部に影響して異常をきたしている場合、もう一つはそれも明らかなものは否定された場合精神や生活習慣の問題からそれが発生している場合。
特に後者はなかなか難しいですが、前者が否定されるとと突然死の可能性などが減るので、本人さんの不安も和らぐと思います。

僕も画像診断を後期研修で選び、キャリアも後期研修後8年フリーと特殊で、昔から精神科や心療内科に興味があったので、こういう風に考えますが、どうしても、昔気質に不得意分野まで自分で抱え込みがちな先生も多いので、患者サイドから変化を求める声も出して欲しいと思います。

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感動的な奇跡に見える医療の現実的な話

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

諦めない気持ちで、家族や医師が人と接すること。 それはこういう1人の人間が主役の時はそうですね。 しかし、現実問題、医療は集団が集団を扱う問題で...

諦めない気持ちで、家族や医師が人と接すること。
それはこういう1人の人間が主役の時はそうですね。
しかし、現実問題、医療は集団が集団を扱う問題です。
集団になれば、現実があって、政治がある。
その中で、助からないものは助からないのですが、そのドライな論理や縦割り行政に負けて、助かるものさえ助からない状況を打破するために何ができるかというのが本当に大事なことではないかと思います。

結局、医師残業時間制限の枠も例外事項が先行しています。
地域の事情や個人、組織の事情もあるので、例外項目や過渡期の条件の策定は重要ですが、それを悪用するようなケースを想定する必要があります。
研修医過労死事件の結果の新研修医制度や専門医制度は揺り戻しがかかってますが、閉鎖的医療界の過重労働問題は、数十年後の日本の医療にさえ影響します。

理由はそういう過重労働や救急のような免罪符が与えられる状況が医療レベルの低下を黙認せざるを得ない同調圧力を医師に、患者に、住民に与えるからです。

医師は人の命を救うだけが仕事ではなく、健康やADLの改善に寄与し、助からない命にまだましな最後を提供することです。
そして、高度細分化医療の中で、個々の医師はわからないことやできないことも多いです。
そういう部分も含めて国民の理解が深まれば、個々の医師ももっと冷静に仕事ができます。

抗NMDA受容体脳炎をピンポイント診断するのは難しくても、CTでは見えなくてもMRIやPET-CTなどで見える病変が存在すること、脳の症状は他臓器に真の原因があり得ることを知っていれば、診断や治療が早く正しくなる確率が上がります。

推測ですが、主治医が脳以外も診る神経内科医で幸運でした。
MRIや病理もよく見る科であり、様々な相談相手もいることでしょう。
チームやシステムを整備すれば、同じような脳炎や難病の正診率は上がると思います。

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