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夫と腎臓とわたし~夫婦間腎移植を選んだ二人の物語 もろずみ・はるか

医療・健康・介護のコラム

ホントに腎臓をもらっていいの? 本心を知ろうと夫に書かせた日記はまるで「デスノート」だった!

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夫の体を傷つけてまで生きる意味が?

 このモヤモヤを、主治医である東京女子医科大学病院教授の石田英樹先生にぶつけたことがある。

 「愛する人の体にメスを入れるなんて、私のエゴですよね。しかも、移植医療ってなんだか人体実験みたい。世間様に顔向けできるのでしょうか」

 石田先生は少し悲しげな顔をした。

 「そう言われちゃうとなぁ……。僕ら移植医療従事者は世間様に顔向けできない治療をしているのかってことになっちゃうよ」

 ハッと我に返り、無神経な発言をした自分を恥じた。石田先生は腎移植医療の権威だ。現在も週に2度ほど腎移植手術に執刀し、移植が最善の方法であると信じ、治療に臨んでおられる。「先生に人生を救ってもらった」と言って涙を流す患者さんの顔も浮かんだ。

 臓器移植医療は、無償のギフトで成り立っている。日本では年間約1600件ほどの腎移植が行われ、うち9割が、生きた人から腎臓を提供してもらう生体腎移植だ。父から娘へ、妻から夫へ。どなたも見返りなど求めるはずがなく、ただただ愛する人の幸せを願ったのだ。

 私は腹を決めた。人生の駒を一つ進める。そのために、夫の真意を確かめようと思った。

本音をさらけだす「未来日記」

おそろいの「ほぼ日5年手帳」です

 使ったのは「ほぼ日5年手帳」。コピーライターの糸井重里さんが主宰する「ほぼ日刊イトイ新聞」が販売する5年使える手帳だ。夫用と私用の2冊を用意し、「将来、交換するラブレターのようなものだ」と夫を諭した。交換するのはずっと先のことなのだから、お互い 忖度(そんたく) しないで書くのがルール。面と向かって言えないことでも本音で書かないと、ラブレターの意を成さないと口すっぱく言った。

 最初はやらされ感満載だった夫も、数週間たつとルーチン化し、「書かないと気持ち悪いわー」と言うようになった。それをいいことに、私は毎晩、夫が就寝するのを待っては、こそこそと夫の日記を開くのだった。 無垢(むく) な夫を (あざむ) き盗み見を繰り返したのだ。

 日記に広がる世界は、まるで「だんなデスノート」のようだった。手書き文字が臨場感たっぷりで、親しみより、むしろ読んでいて苦しくなった。夫は、私への不満、嫌悪感、移植医療への不安を、ルール通り、包み隠さずつづっていた。

 「はるかさんがまた夜中に仕事してる。手術に備えて欲しいのに自分のことばっかり」「はあ、嫌悪感で、まともにはるかさんの顔が見れない」「手術まであと1か月。不安すぎて腎移植のネット記事を読み (あさ) ってしまう」などなど。読んだ私は、「やはり、手術はやめるべきか……」と追い込まれていった。

「頑張れ。あと少しで手術だからね」

 ところが、手術日が近づくにつれ、夫の別の本音も透けて見えるようになった。「最近、はるかさんの調子が良い。手術に向けて前向きになってるのかな」「頑張れ。あと少しで手術だからね」。夫は、自分の意思で、ドナーの役割を果たそうとしていた。

 もうすぐ、腎移植1周年だ。私は今でも、たまに夫の日記を読み返す。もはや本人に断りすら入れず、堂々と机に肘をついて読んでいる。「はるかさん!」と、ちょっと怖い顔をしてみせる夫。「いつか日記に書いてやろうと思ってたんだけど、最近調子にのってない? 暴食するわ、夜更かしするわ、もう寝なさい!」。面と向かって、 (げき) を飛ばされた。(もろずみはるか 医療コラムニスト)

監修 東京女子医科大学病院・石田英樹教授

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もろずみ・はるか

医療コラムニスト
 1980年、福岡県生まれ。広告制作会社を経て2010年に独立。ブックライターとしても活動し、編集協力した書籍に『成約率98%の秘訣』(かんき出版)、『バカ力』(ポプラ社)など。中学1年生の時に慢性腎臓病を発症。18年3月、夫の腎臓を移植する手術を受けた。

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5件 のコメント

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ドナー本人

いっこだけ

10年前に夫婦間移植しました。ドナーです。 2つあるんだから1つあげるよ!くらいに軽ーく勧めましたが、断固拒否する夫の説得に1年半かかりました。...

10年前に夫婦間移植しました。ドナーです。
2つあるんだから1つあげるよ!くらいに軽ーく勧めましたが、断固拒否する夫の説得に1年半かかりました。移植後のリスクがあまり知られていない現状があると思います。副作用による鬱や免疫力低下による感染など。でも夫婦が幸せならそれが1番です。

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ホロリ

戻って欲しいmyLOVE

旦那様の愛溢れる日記の内容に、ホロリとしました。羨ましく、我が身をふりかえりました。私にも、そんな風に愛してくれる主人が居ましたが、癌で亡くなり...

旦那様の愛溢れる日記の内容に、ホロリとしました。羨ましく、我が身をふりかえりました。私にも、そんな風に愛してくれる主人が居ましたが、癌で亡くなりました。せっかく、愛してくれる旦那様の腎臓を移植していただいたのですから、仲良くお幸せに~☺️

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ドナーの自由意志

質問者

夫婦間移植で、ドナーの自由意志はどのくらいあるのだろうか。愛があれば臓器提供、と期待されてしまう関係のなかでは、提供を申し出ないほうが難しくない...

夫婦間移植で、ドナーの自由意志はどのくらいあるのだろうか。愛があれば臓器提供、と期待されてしまう関係のなかでは、提供を申し出ないほうが難しくないだろうか。

夫婦愛あるいは共依存、どう呼ぶべきか分からないが、そのような関係性のなかで果たして医学的な理由で不可という以外に提供しないことは言いだしにくいのでは。その点が自分は怖いと思う。他人に見せない前提の日記にだって書けないこともあるのだ。

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