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食べること 生きること~歯医者と地域と食支援

コラム

高齢末期がん患者でも、自宅で一人暮らしができる

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  先日、親しいケアマネジャーから訪問歯科の依頼を受けました。末期のがんで入院中の84歳の男性は身寄りもなく一人暮らし。管から栄養を取り、ほぼ寝たきりなので病院側は自宅に戻るのは無理と判断していました。しかし、本人がどうしても帰りたいと言うので、自宅に戻ってくることになったのです。ケアマネジャーが退院前に病院側と本人に面会した後、歯科医にも声がかかりました。病院では飲食禁止で一切口から食べていません。血管に直接栄養を注入する形で栄養を摂取しています。口から食べたり飲んだりできないのかを確認して、口腔こうくうケアを徹底してほしいという依頼でした。

福祉用具専門相談員らがごみ屋敷整理、ベッド設置

 退院前に福祉用具専門相談員と業者で本人の家を整理。かなりのごみ屋敷だったらしく、不用品を大量に処分したそうです。その後、ベッドの設置も終わったので本人が退院。訪問看護師は日々の体調と血管栄養の管理。ホームヘルパーはベッドから動けない本人に代わり、身の回りのお世話。福祉用具専門相談員はケア環境が少しでも良くなるようにベッドの位置や棚の位置など看護師やヘルパーと相談しながら気を配りました。

水をひと口、「生き返った!」

 歯科医の最初の訪問は、ホームヘルパーのサービスが終わる直前にしました。口の中を観察し、ヘルパーにも一緒に見てもらい口腔ケアの注意点と方法を伝えました。それから、水を飲み込む機能が働いているかどうかを評価すると、少量ずつなら飲めることがわかりました。定期的に訪れる訪問看護師の介助で水を飲めるよう飲み方を指導しました。入院中から喉の渇きを訴えていた本人は、水をゴクリと飲み込むとひと言。「生き返った!」――。

 ベッドで寝たきりの末期がんの高齢者も複数の専門職の援助を受ければ、ある時期までは一人で暮らすことができるわけです。だからこそ、医療や介護に関わる専門職の間では、「地域連携」とか「医療介護連携」とか、多職種の連携がキーワードになっています。ただ、内輪の話を言えば、多職種の連携というのは、いろいろ難しいところがあって、いつもうまくいくとは限りません。84歳の男性のケースは成功例です。タネを明かすと登場人物は全員顔見知りでした。難しいケースなので、ケアマネジャーが日頃から顔も実力も気持ちもわかる仲間に声をかけたのです。

在宅ケアで大切なのは?

 大都会新宿でこれは珍しいことです。在宅ケアでは、現場ごとに関わる方のメンツが異なり、それぞれの価値観や会社の方針で動きます。一軒のお宅に入れ違いで出入りするので、関係する専門職同士は顔を合わせないことも多いのです。医療介護の世界で、「連携」の大切さがしきりに強調されるのは、こうした難しさがあるからという面もあります。

 連携には何が大切なのか、とよく考えます。今回は「顔の見える関係」でしたが、それは必ずしも不可欠な要素ではないと思っています。顔を知っていても、優しい人であったとしても、専門職としての実力がなければ連携はうまくいきません。これは自分にも言えることで、「五島先生って優しいけど、入れ歯の技術ないよね」ってケアマネジャーに思われたら連携の輪から外されてしまうでしょう。僕は、東京都新宿区で多職種がプロフェッショナルとして集い、連携し、患者さんの希望に寄り添う支援をしたいと思って頑張っています。                                                      (五島朋幸 歯科医)

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五島朋幸(ごとう・ともゆき)
歯科医師、ふれあい歯科ごとう代表(東京都新宿区)。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。新宿食支援研究会代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」、「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」パーソナリティーを務める。 著書は、「訪問歯科ドクターごとう1 歯医者が家にやって来る!?」(大隅書店)、「口腔ケア○と×」(中央法規出版)、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」(大隅書店)など

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