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いつか赤ちゃんに会いたいあなたへ

医療・健康・介護のコラム

「産みたい」より「育てたい」派なら、養子縁組も早くから選択肢に

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不妊に悩み、赤ちゃんを養子に迎えた保育士

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 長いこと不妊治療を頑張ってきたKさん(39)は、ベテランの保育士です。子供もが大好きで選んだ仕事だったけれど、31歳で結婚後、いざ自分が授かろうと思ってもなかなか授からず、35歳の時、思い切って不妊治療を始めたそうです。しかし人工授精をしても、体外受精に治療を進めても妊娠しない……。自己肯定感が持てなくなり、妊娠判定結果がマイナスだった日には、あんなに好きだった子供たちを見るのが苦痛になってしまい、一時は仕事を辞めようと思い詰めたこともあったといいます。

 Kさんのように、子供を相手にする職業を選んだのに、自分の子供が持てずに悲しい思いをしたという話は、しばしば聞くことがあります。毎日、子供たちの無邪気な笑顔に接するたび、「早く私もこんなかわいい子供が欲しいな」と思います。しかし、その希望が大きいほど、赤ちゃんがやってこない現実にぶつかった時の絶望も大きくなります。

 けれど、そんなKさんたちのところにもこの春、ついに念願の赤ちゃんがやってきました! 養子を迎えたのです。玉のようにかわいらしい生後1週間の男の子でした。Kさん夫妻は慣れない育児に戸惑いつつ、寝不足ながらも幸せな日を送っているそうです。

「もっと早く知っていればよかった」 養子や里子を迎えた人の声

 私の周囲にもKさんのように、不妊治療では子供を授からなかったけれど、養子や里子を迎えた人が何人もいます。彼女たちは口をそろえて言います。「もっと早く、養子という選択を知っていればよかった。そうしたら、もっと早くかわいい我が子と出会えていたのに」と。「治療をする前に知っていたら、私は迷わず養子縁組を選んだ」という人までいます。実際に私も講演やセミナーなどで話すと、「不妊当事者は、なぜ養子という選択をしないのか?」「妊娠できるかわからない治療をつづけるより、育ててほしい子供を引き取った方がいいのではないですか」と、ご質問やご意見をいただくこともあります。

 確かに、望んでも子供もができない場合は病院に行くのが一般的になっているのが日本の現状です。「子供、なかなかできないね。じゃあ、そろそろ養子を考えてみる?」などという会話は、なかなかされないものです。この会話がされるとしたら、治療に行き詰まって「これ以上続けても子どもを授かれないかも……」と考える時期が多いでしょう。もっと早くから、養子や里子を迎えて親になるという選択肢もあっていいのでは、というご意見はごもっともだと思います。

法律上も親子になれる「特別養子縁組」

 実子ではない子供を迎えて育てる夫婦を「養親」といい、子供を迎える方法としては二つあります。一つは児童相談所から迎える里親制度。これは子供を委託されて育てるもので、養子縁組を前提とするものと、しないものがあります。もう一つは民間機関(養子縁組あっせん団体など)から迎える養子縁組制度です。養子縁組には、普通養子縁組(一般的な養子)と、特別養子縁組(法律的にも生みの親ではなく、養親が「親」となるもの)があります。私の友人たちの多くは、この「特別養子縁組」をして、法律上も自分たちが親として子供を育てています。大切なのはいずれの場合も、社会的養護の観点に基づいた制度であることです。

 長年、不妊の問題に携わっていて思うことは、子供を望む女性には大きく2通りあるということです。それは「産みたい」派と、「育てたい」派です。産みたい派の場合は、言うまでもなく不妊治療を選び、妊娠・出産するために一生懸命、頑張ります。おそらくこちらの場合は、治療を受けるという選択肢は自然であり、悔いのないように治療を行うことが、結果はどうあれ「納得感の高い治療」に結びつく可能性が高いでしょう。

 しかし、「育てたい」派の場合は、自身の出産にこだわらず、子供のいる家庭を夫とともに作り上げていくこと、子供を育て成長を見守ることのほうに喜びや幸せを感じるようです。実際、周囲の子育て中の友人たちを見ると、血のつながりのあるなしはすでに何の関係もなく、たっぷり愛情を注ぎ、叱り、ケンカもするし、甘えもする、ごくごく普通の仲の良い家族です。この「育てたい」派の彼女たちには、もっと早く、できれば治療の前に「養親」という選択肢があってもよかったのではないかと常々思うのです。

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松本亜樹子(まつもと あきこ)

NPO法人Fineファウンダー・理事/国際コーチング連盟マスター認定コーチ

松本亜樹子(まつもと あきこ)

 長崎市生まれ。不妊経験をきっかけとしてNPO法人Fine(~現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会~)を立ち上げ、不妊の環境向上等の自助活動を行なっている。自身は法人の事業に従事しながら、人材育成トレーナー(米国Gallup社認定ストレングス・コーチ、アンガーマネジメントコンサルタント等)、研修講師として活動している。著書に『不妊治療のやめどき』(WAVE出版)など。
Official site:http://coacham.biz/

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