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思春期の子どもを持つあなたに

コラム

第5部 反抗挑戦性障害(下)母親と同じ布団で寝るB君――「何をしても許される」という万能感

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母親は息子と距離を置く決意を

 自分の兄弟たちも母親から愛されていることはわかっていても、「ずっと一緒に寝ているのは僕だ」とB君は考えます。男の子の場合、母親に誉められたり、認められたりする経験が自己評価を安定させ、自尊心を高め、それが自信になります。

 自信を持つことのすべてが悪いわけではありません。ただし、自分に対して過剰な自信を持ってしまうと、いくら母親が注意しても、子どもには響かなくなってしまうのです。

 私が診察中にそれを伝えると、母親は「Bが学校で問題を起こして先生に呼び出されると、私は落ち込むし、心配になって小言を言おうとします。ところが、『大丈夫だよ、ママ。そんなに落ち込まなくていいよ。僕が一緒に一生寝てあげるよ』と、逆に慰められてしまうんです。そう言われると、小言を言う気もなくなってしまうというか……」と困惑の表情になりました。B君に強く言ってこなかった母親の内面が明らかになってきました。

 私は「B君は何をやっても母親が許してくれると思っているし、そこが修正されなければ、また同じ問題が起きる可能性がある」と説明し、環境を変えるだけになる「転校の決断」は慎重にすべきと伝えました。

 母親は、私の言うことを頭では理解するものの、なかなか末っ子のB君から距離を置く決意にまでは至りません。しかし、乱暴な行動がおさまらないと、B君の将来に大きな不安を残すことも理解はしていました。

 ようやく、母親は大きな妥協と決断をしました。

 もう夫婦としては手をつなぐことはない代わり、親としては協力していくということです。

 母親は父親に「協力してほしい」と伝え、次回から両親ガイダンスが始まりました。

両親の協調で、自分を見直せるように

 まず私から、「母と寝室を別にして、性的な刺激を遮断するように」と伝えました。

 さらに、本人の暴力を母親が容認しそうになったら、父親が「どんな理由があっても、乱暴はいけない」と伝えること、なによりも二人で一緒に問題に取り組むようにアドバイスしました。

 母親は「もう中学生なので別々に寝ることにする」と伝え、B君は一人で眠るようになりました。B君の理不尽な乱暴に対しても、少しずつではありますが、両親そろっての対処を始めました。

 父親が「暴力はいけない」と言ったとき、B君は「お前だって俺たちを罵倒してきたじゃないか」と「言葉の暴力」を主張しましたが、初めて父親の側に立った母親が「それは昔のこと。今のお父さんはそんなことをしていない」とB君に伝えました。

 また、B君が「友達が僕をイライラさせるようなことを言った」と、怒りにまかせて自分のスマホを壁に投げつけて壊したことがありました。以前ならすぐに母親が新しいものを買い与えてきました。でも、このとき以降は、同じことがあっても、両親がそろって「自分の行動に責任を持つように」と伝えて、新しいスマホは与えませんでした。

 普通の家庭なら当たり前のことばかりですが、実際にB君の両親が私のアドバイス通りに行動できるようになるまで半年以上もかかっています。

 両親の態度が変化していったのを感じ、最初は反発したB君でしたが、徐々に変化が見られるようになりました。自分のことを「俺様」と呼び、母親を顎で使うこともあったのですが、自分の態度に対して父親が介入するようになり、母親も同調してそれに向き合うようになったことで、それまでのやり方が通用しなくなったことを理解していったようです。

 以後は、母を振り回すような行動が減っていきました。

 「何をしても母親は思い通りになる」という思い込みを修正し始め、母親は自分のものではないことを認識しだしたのです。

 学校や家庭内でのB君の乱暴な行動はなくなっていきました。(関谷秀子 精神科医)

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shisyunki-prof200

せきや・ひでこ
精神科医、子どものこころ専門医。法政大学現代福祉学部教授。初台クリニック(東京・渋谷区)医師。前関東中央病院精神科部長。

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2件 のコメント

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2人目の子供が生まれたときの、1人目の子供の何人かの暴走が知られていますが、家庭内での順位や立場というものに子供やペットは敏感です。
そういう意味でも、夫婦関係や子供への対応が子供の成育やその後の婚姻の有無や関係性に影響を与えます。
それは人間の共依存の性質に絡んでいますから。

そういう意味で、どうやって、関係を比較的正常化するか、あるいは正常な状態や普通の家族というのがある種の幻想や偶然に過ぎないとわからせてやるのが大事ではないかと思います。

ちょうど、性の多様化も語られるようになってきていますが、孤独でも、ペアでも、ファミリーでも、グループでも、自傷他害なく生きていけることが大事で、そのためにその年齢ごとに、あるいは多少の発達順序の個性はあっても、区切りの年齢までに自立の能力を育み、状況に応じた態度や感情の発散を覚えていくことが大事です。
能力とかある種の経験、家族、関係が欠けているのは人間社会ではよくある事です。
むしろ、戦前戦後の方のほうが皮膚感覚にあるでしょう。

社会での住み方や働き方も変化してますが、核家族化であったり、観光客も含めた国際化の影響もありますので、個人の持つべき能力の意味合いも変わっていますし、一般社会との懸け橋である、小学校、中学校、高校、その後も含めて、どこかで感情の発散の仕方も調整していかないといけないわけですが、そういう部分に関してもこれから考えられていくんでしょうね。

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