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思春期の子どもを持つあなたに 関谷秀子

医療・健康・介護のコラム

第5部 反抗挑戦性障害(下)母親と同じ布団で寝るB君――「何をしても許される」という万能感

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「ママはもっとましな男と結婚すれば良かったのに」

  過去に浮気の経験があり、自分の子どもたちを平気で罵倒してきた父親と、息子の問題行動がまったく見えていない母親――。B君の両親の間には、簡単には埋められない深い溝がありました。

 3人の息子は母親の肩を持ち、「ママはもっとましな男と結婚すれば良かったのに」とまで言います。特にB君は「僕がずっとママといるから大丈夫だよ」と、常に母親を慰める立場だったそうです。

 かつては夫婦げんかをしても母親が我慢をするばかりでしたが、息子たちが3人とも自分の味方についてくれるようになると、夫に対しても強気に出るようになり、「あなたが出て行きなさい」ときっぱりと言うようになりました。

 そんなとき、夫は勢いで家を出ていきますが、しばらくすると「悪かった。お前の言う通りにする」と帰ってくるというのです。

 そんなことの繰り返し。夫婦げんかは絶え間なく繰り返されてきました。

 B君の問題行動についても、二人の見解は正反対です。一方的にB君の肩を持つ母親に対して、父親は乱暴な行動をとがめることが多いようです。

 とはいえ、父親が強い口調でB君を叱っても、「今さらBのことで口出ししないでほしい」と母親が言い返し、夫婦仲はさらに悪化していきました。母親は、3人の息子を自分の味方につけ、過去の恨みを晴らしているようにも見えます。

 B君はB君で、そんな両親の状況を気に病む部分もあり、「僕のことで争いをしないで」と二人に言うことがあったそうです。

同性の親を排除したいという願望

 

第5部 反抗挑戦性障害(下)母親と同じ布団で寝るB君――「何をしても許される」という万能感

 ここまでの経緯を聞いただけで、B君の問題行動の背景には、両親の夫婦関係の崩壊が影響していることが推測されました。

 B君が生まれてからは、夫婦は別々の寝室となり、母親は3人の息子と同室で寝ていたそうです。長男、次男も小さい頃には母と一緒の布団で寝て、弟が誕生するとその場所を譲ってきました。しかし、末っ子のB君は、12歳になっても母親と同じ布団で寝ていました。

 子どもは幼児期に、男の子なら「ママと結婚したい」、女の子は「私のパパは王子様」と異性の親に恋心を抱きます。しかし、母親が好きだから、父親が邪魔だなどという同性の親への排除願望は、自分の生活にとっても危険を伴うことになります。だからこそ、父親の男らしさや価値観などを自分の内部に取り入れて、「パパみたいな男になる」と成長していくわけです。

 ところが両親の夫婦仲が悪いと状況は変わります。

 自分の父親が、あまり母親に愛されていないと感じると、息子はいつまでも母親への恋心を諦められなくなります。自分を溺愛する母親の言動も、そんな気持ちに拍車をかけてしまい、「ママに一番愛される男になろう」と考え続けてしまうようになります。

 こうなると、父親からの規範を取り入れることは難しくなります。

 B君の場合は、母親との蜜月が長く続いたことで、「僕がママを幸せにしている」「父にも兄たちにも勝っている」との万能的な自信を持つようになっていました。「乱暴はやめなさい」と母親から言われても、「結局、ママは許してくれるはずだ」と自分勝手に確信して、注意を真に受けなくなっていたのです。

 ここは、B君の治療で重要なテーマになりました。

 すでにB君は同級生の女の子に興味を抱き始めています。そんな年齢になっても母親と一つの布団で寝続けていることは、性的な刺激になります。思春期を目前にした子どもの体内では「性ホルモン」が上昇し始め、大人と似た欲動が生まれてきます。性的な刺激を受けると、それを発散するチャンネルを獲得していないことで、暴力の形で発散する可能性もあるのです。

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shisyunki-prof200

せきや・ひでこ
精神科医、子どものこころ専門医。法政大学現代福祉学部教授。初台クリニック(東京・渋谷区)医師。前関東中央病院精神科部長。

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3件 のコメント

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とても分かりやすかったです

あんぱんマン

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2人目の子供が生まれたときの、1人目の子供の何人かの暴走が知られていますが、家庭内での順位や立場というものに子供やペットは敏感です。
そういう意味でも、夫婦関係や子供への対応が子供の成育やその後の婚姻の有無や関係性に影響を与えます。
それは人間の共依存の性質に絡んでいますから。

そういう意味で、どうやって、関係を比較的正常化するか、あるいは正常な状態や普通の家族というのがある種の幻想や偶然に過ぎないとわからせてやるのが大事ではないかと思います。

ちょうど、性の多様化も語られるようになってきていますが、孤独でも、ペアでも、ファミリーでも、グループでも、自傷他害なく生きていけることが大事で、そのためにその年齢ごとに、あるいは多少の発達順序の個性はあっても、区切りの年齢までに自立の能力を育み、状況に応じた態度や感情の発散を覚えていくことが大事です。
能力とかある種の経験、家族、関係が欠けているのは人間社会ではよくある事です。
むしろ、戦前戦後の方のほうが皮膚感覚にあるでしょう。

社会での住み方や働き方も変化してますが、核家族化であったり、観光客も含めた国際化の影響もありますので、個人の持つべき能力の意味合いも変わっていますし、一般社会との懸け橋である、小学校、中学校、高校、その後も含めて、どこかで感情の発散の仕方も調整していかないといけないわけですが、そういう部分に関してもこれから考えられていくんでしょうね。

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