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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

コラム

[最終回]本当は障害児に寛容な日本人の心 かよわい「命の萌芽」…みんなで包んで

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日本の神話に見る障害児への心情

 国立成育医療研究センターの調べによると、2006~16年の間に、出生前診断を受けた人の数は2.4倍に増加したそうです。統計を細かく見ると、12年から検査数が増え始めています。この年は、翌年から始まる新型出生前診断が大きく報道された年でした。人々の心の中に、「みんなが受けるのなら自分も」という気持ちがあったのかもしれません。

 しかしながら、私が医師として31年間、働いてきた経験から言うと、障害のある赤ちゃんを育てていこうと考える親もまた、増えている印象があります。

 妊婦の高齢化や少子化によって、産める子どもの数が限られているという事情もあるのでしょう。ただ、私は、そうしたことだけが要因だとは思っていません。日本人は案外、障害児に対して寛容な面を本来、持っているような気がします。

 日本で初めて生まれた子どもは誰か、みなさんはご存じでしょうか? それは神話の中に登場します。 伊耶那岐(イザナギ) と 伊耶那美(イザナミ) の間に誕生する蛭子(ヒルコ)です。蛭子は、体がぐにゃりとして立つことができませんでした。親は、蛭子を (あし) 船に乗せて流します。

 ここまでなら悲しい話で終わってしまうのですが、日本人の心情がそれを許さなかったのでしょう。ヒルコは流れ着き、そこでエビス(恵比寿=蛭子)として祭られたと伝承されます。「福の神様」としての復活です。この神話の中に、障害児を受け入れようとする日本人の心が表れているのではないでしょうか?

連載が命について考えるきっかけに

 西洋人は、病気や障害のある子に直面したとき、悔い改め、神に祈って奇跡を期待したり、「これだけ信心しているのだから救ってくれ」と、神様と取引しようとしたりします。そこには、「神と自分」という1対1の対峙があり、罪の (ゆる) しによって救われようとする罪の文化があります。一方で、日本人には相対的にそうした激しさはく、「仕方ない」というあきらめと受容の文化があるように思えます。

 これから先、どれだけ医学が進歩しても、障害や病気のある赤ちゃんは必ず誕生します。その命の萌芽をどう許容するか、一人ひとりが自分の心で考えてみる必要があるのではないでしょうか?

 17年10月から始まった連載は、今回をもって終了となります。これだけ長い期間、連載が続けられたのは、ひとえに読者の皆さまの厚いご支援があったからです。賛同の声だけでなく、批判の意見もいただきました。幼い命、かよわい命を応援する声が多数寄せられた反面、社会が障害児を受け入れることに強い否定の意見を述べる人もあり、正直なところ大変驚きました。

 しかしながら、多くの人が命について考えるきっかけになったのであれば、この連載の目的は達したのではないかと考えます。これまで本当にありがとうございました。(松永正訓 小児外科医)

*「いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち」は今回で終了します。

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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2018年9月、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)を出版。

ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

名畑文巨(なばた・ふみお)

大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは http://www.fumionabata.com/index.html

名畑文巨ロンドン展報告

ギャラリー【名畑文巨のまなざし】

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1件 のコメント

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世の中を動かすのは人の心か神の技か?

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

最近「お前は人の心がない」と言われました。 よく言われてきた気もします。 「お前が俺の何を知っているんだ」とも思いますが。 確かに、医師という特...

最近「お前は人の心がない」と言われました。
よく言われてきた気もします。
「お前が俺の何を知っているんだ」とも思いますが。

確かに、医師という特殊な職業の中の放射線科医というさらに特殊な仕事を選んでいるので、普通の人にそういう風に思われるのも仕方ないです。
画像診断は普通の人が何時間かけても分からないものを、5分から30分くらいで診断し、準確定診断や、追加検査あるいは他の検査との勘案に割り振る非人間的な仕事です。
勤務時間内外の修練やリフレッシュの時間や得られた知識による別の目線を他人がどう評価するかは不明です。

さて、障害児は助けるべき命なのか、判断の線引きもグレーゾーンも幅があって難解です。
人それぞれに答えも違うでしょう。
サッカーの、タッチラインを割りそうなボールに似ています。
届かないかもしれないけど頑張るのか、無駄な動きはしないのか?
もしも届かなくても、頑張ることがチームメートや観客の心に火をつけるかもしれない。
そういう意味では、障害児のみならず、障害児医療に携わってきた人が直接間接に作り出した価値や発想をおさらいするのもいいのではないかと思います。
検査や診断あるいは他領域においてどれだけ医療社会、人間社会に貢献してきたかを。

人間社会では特定の個人や組織にスポットが当たりがちですが、誰が評価されるか時代や偶然の影響もあります。
そういうものもひっくるめて、人の心や技術の届かない神の領域なのかもしれませんが、かといって努力しないで目標達成することはまれですし、成果を持続させることはもっと困難です。。

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