心療眼科医・若倉雅登のひとりごと
医療・健康・介護のコラム
宇宙に行くと、視神経乳頭が腫れる
宇宙では脳の圧力が高まる可能性も
この状態が起こった理由として、飛行中に頭蓋内の圧力が高くなって、その圧力が眼球の奥にある両側の視神経に及んだ可能性を第一に指摘しています。この状態は専門用語では「うっ血乳頭」といい、頭蓋内に腫瘍などの余分なものができてしまった場合や、原因不明で髄液の量が増えて圧力が高くなった場合に起き、地球上でも生じる所見です。
しかし、「SANS」の場合、飛行中に頭蓋内の圧力が本当に高くなるのかどうかはわかっていません。帰還後のMRI(磁気共鳴画像)では、脳全体は上に持ち上げられ、脳内の髄液が充満しているスペースである側脳室が大きくなっていることが指摘されており、宇宙飛行の間に生じた重要な身体変化として今後も注目すべき点です。
視力の問題を自覚した例は、対象のうち1例だけだったのですが、これらの変化は次第に改善してくるのかどうかの情報は、まだありません。
この変化が改善せずに続いた場合、宇宙空間の滞在時間が延びた場合や、年齢や遺伝的、目や脳における解剖学的個人差が、この症状にどう影響するかは全く未知です。
「うっ血乳頭」は、初めのうちは視力に全く影響しませんが、治らずに長期化すると、やがては両目の視力を一気に失う事態になることを、我々医学者はよく知っています。
それだけに、宇宙旅行が実現してきそうな現代、これは看過できない問題でしょう。
(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)
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